「恐い女でしょう?」



私が台所に戻ってくると、清太郎さんが苦笑とも冗談ともとれる笑みを浮かべていた。



「はぁ…」


「俺はあぁいった女子は苦手です。栞さんのように媚びたりしない女性の方がよっぽど素敵だ」

「まぁお上手」



夕飯の支度を始めながら私が笑うと、清太郎さんは「本当ですよう」と言いながら私の横に来た。

ほんのりと和菓子の甘い香りがする。

外では鳥のチチチ…という短い鳴き声が聞こえる。


清太郎さんを見ると、少し困ったような顔をして私を見ていた。




「なんだか誤解されているようだから言いますけど、誰にでも言っているわけじゃあありませんよ?」



影の色が濃くなってくる昼下がり、
妙な沈黙に、私は内心困惑していた。

彼の手が、ゆっくりと私の手に重なる。
固まったまま動けない私を尻目に、清太郎さんは少し躊躇ったあと、ゆっくりと私に顔を近付け…


「清太郎!!どこで油を売っているの!?」

「!?」



玄関から聞こえる怜香さんの声に、ハッと我に返ったかのように彼は私から離れた。

首筋まで真っ赤にして「ごめん…」と小さく言うと、すぐに台所を出て行った。



遠退いて行く怜香さんと清太郎さんの言い合いを耳にしながら私はその場に崩れ落ちた。






それがきっかけだったかのように全身がぶるぶると震え出す。



どうにも体が思うように動かない。



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