(婚約者か…)






考えてみれば聞くこともできたかしらと、ぼんやり考える。

清太郎さんから紹介されたその時、まるで私の中にある扉が何者かによって乱暴に閉められたような不意打ちにも似た衝撃があった。




しかし思い直してみれば使用人の私にとっては関係のないことなのだ。
どうして私は落ち込んでいるのだろう…?
















「使用人を雇われたんですのね。播田さんと言ったかしら」



襖越しに聞こえる甘ったるい声に、私は我に返って立ち止まった。




「玄関でお会いしましたけど、お可愛い方でいらっしゃるのね」

「…何か不満かい?」


ようやく聞こえた霎介さんの冷えた声に、私の胸はどきりとした。




「彼女の持っていたお盆には湯呑みが二つ。
…お客様でも?」


それに対する怜香さんの声にも、どこか攻撃的な色が感じられる。


「読書後の考察をしていただけだ」

「そんなこと世間様に知れたら笑われますわ。
止して下さいまし」




ぴしゃりと言う彼女の言葉を受けて、書斎の中に沈黙がおりた。