その頃仕事が多忙だった彼は、残業してそのまま会社に泊まり込むことがたまにあった。


この日もそのつもりだったらしく、せっかくだからとわざわざ近くのビジネスホテルの部屋を取って私の話を聞いてくれた。



彼は私の許されない想いを知る数少ない人の一人で、私の“初めて”を捧げた相手でもあった。


私は彼のことを心から愛してたわけじゃない。


それでも長く一緒にいられて、身体を重ねることまで出来たのは、

彼が本当に私のことを愛してくれて、優しく包んでくれていたからだと思う。



彼に抱かれている間だけ感じられる偽りの“恋人ごっこ”は、きっとあの頃の私には必要不可欠なものだった。