「マナ、おいで」



桶に水を汲んだ私は、少し離れた場所で雪遊びをしている愛斗(マナト)を呼んだ。


おいでおいでと手招きすると、愛斗はにっこり笑って何かを手に乗せ、テテテッと走ってくる。



「お母さん見てー!」


「わぁ、カワイイ雪だるま!上手に出来たね」


「うん!」



私と手袋をした小さな左手を繋いだ愛斗は、手乗りサイズの雪だるまを右手に持ったまま歩きだした。


二人で“ゆきやこんこん”と歌う声と雪を踏みしめる音だけが、静かな冬晴れの空に響く。



ここは幾つもの魂が眠る場所。


…愛しい
あの人が眠る場所──…



辺りを白く覆っている無数の結晶達に、太陽の光が反射してキラキラと輝いている。


爽やかな青空と、汚れのない純白の雪が魅せる自然の絵画。


辺り一面、冬景色。



乾いた冷たい空気が肌を射す2月の初旬──


私達は高台にある比較的大きな霊園に訪れていた。



「今年もあなたの好きな季節がやってきたね…」



雪が被った一つの墓石の前に立ち、ぽつりと呟くと、


「ぼくも冬好き~」


と言って、愛斗がまた雪で遊び始める。


その無邪気な姿に、私は優しく微笑んだ。


藤咲家の墓石に彫られた秋(シュウ)の名前。


侘しい気持ちを抱きながら、タオルで丁寧にその名前を拭く。



私が墓石の掃除をしている間も、愛斗は雪だるまに枝葉で目や手を付けて遊んでいた。


愛斗は雪が好きだったあなたに似たのかもね。



──でも私は嫌い。


雪は綺麗な姿とは裏腹に、とても恐ろしいモノだから。


私から、
あなたを奪ったモノだから──…





「これあげるー」



掃除も終わり花を供えたお墓に、ちぐはぐに飾り付けられた雪だるまを愛斗がちょこんと置いた。


その小さな優しさに、心が一瞬で暖かくなっていく。


「ありがとうね、マナ。秋もきっと喜んでるよ」


「えへへ〜♪」


嬉しそうに笑う愛斗の頭を撫でて、お線香を供え二人で手を合わせた。





そこから私達の姿は見える?


愛斗はこんなに大きくなったよ。


優しくて、素直な子に育ってくれてるよ。




──ねぇ、秋…


あなたがいてくれたら


私達の未来は
どうなっていたのかな…?








◇Side 叶

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『おっはよー!かなう起きたぁ?』


「……あぁ、今起きた」


お前のその甲高い声でな。



『よかったぁ♪かなうは朝苦手だって言ってたから、ミナが起こしてあげようと思って〜』


「そりゃご親切にどーも…」



耳から少し携帯を離しつつ、のそりとベッドから起き上がる。


朝が苦手っていうより、寝起きが悪いって言った方が正しいんだけど…。

このねちっこい喋り方と甘ったるい声のせいで尚更だ。



『愛のモーニングコールだよっ♪』


「……は、ははは」


俺はそんなの頼んだ覚えはないぞ…。


まぁ、これは自業自得だから仕方ないのだが。


ミナ…って言ったっけ。


ついこの間、ダチに誘われて数合わせで行った合コンで知り合ったギャルだ。



『俺は誰とも付き合う気はない』

と言ったのだが、アイツはしつこくまとわりついてきて。


『セフレでもいいよ?』

と、この甘えた声で言われ、酔った勢いもありそのままホテルへイン。


そうしたら案の定このモーニングコールが始まり……。



『ねぇ〜、やっぱりアタシかなうと付き合いたいよぉ』


そして予想通りの言葉が。



『ねぇ〜ダメ?』


「ダメ」


あっさり、きっぱりお断りだ。