-キミの声が聞きたくて-


































陸翔side


美和に気持ちを伝えてしまった日から一週間が経った。


あの日、学校に着くなり俺は長野と直人に色々と作り話を吹き込まれたっけな。

俺が屋上から飛び出した日、テストだったなんて知らなかったし、直人たちの迫真の演技で先生を騙したらしいし。

口裏合わせにと、俺が登校中におばあさんを助けただの付き添って病院まで行っただの………


直人らしいなって笑った。


それから、長野と直人にきちんと伝えた。

“美和に気持ちを伝えてしまった”ことを。


長野は悲しそうに……と言うより、怒りが見えたのは気のせいか?

直人は、何かを決意したような表情だった。


2人とも、人がフられたってのに違うこと考えてたし……


あんまりじゃねーか?

ま、2人にはたくさん支えられたし、感謝しなきゃな。







美和side


あの日、陸翔に告白された日。

雫からメールが届いていた。

“あんたの事だから、「美波が幸せになれなかったのは私のせい」だの「私だけ幸せになるなんて出来ない」だの、考えてるんでしょう?”


見透かされていた。

やっぱり、雫には適わない。
そんな風に思った。


“美和、あんたバカだよ。
そんな事、もう気にしなくて良いんだよ……?
美和は、幸せになって良いんだよ……
美波に、気を使うことない。
今ならまだ間に合うから。
坂井くんに気持ち、伝えるべきだよ”


雫にそう言われ、胸につかえていた何かが取れたように……

思いが溢れ出した。



伝えたい………
伝えたいよ………

陸翔に。
だけど、本当に良いのかな……?



もしかしたら、陸翔の気持ちは変わっているかもしれない。


そうだよ。
もう、私なんかのこと好きじゃない可能性のほうが大きいじゃん。


そんな風に悩んでいると、あっという間に一週間が経ってしまっていた。








私たちの席は相変わらず前後。

こんなにも近くにいるのに、遠い。


毎日、毎時間。
私は陸翔の背中を見ている。

こんなにも近くにいるのに、何でだろうね……?


こんなに陸翔の背中は、遠かった…?


あの日から一週間。
たった一週間で以前と変わらないようになった私たち。


だけど。

だけど、私たち前よりどこか遠い。


授業中、この陸翔の寂しそうな背中を見ると手を伸ばしてしまいそうになる。



“好き”



好き。好き。好き。………好き。




こんなにも、好き。


陸翔、思いを伝えてもいい……?


雫、ありがとう。
私、幸せになれなくても良い。


伝えたい。

今の、この気持ち、大切にしたい。




だから、伝える。







その日の放課後。

私は気持ちを伝えることを雫に相談しようと決心した。


放課後の教室には2、3人しか残っておらず話すなら今だと思った。


“雫”


私は雫に手話で話しかける。

学校で私が手話を使うことなんてめったにない。


だからか雫は少し驚きながらも返事をする。

「…どした……?」

不安そうな雫。

“……私、陸翔、気持ち、伝える、”

私が初めて手話を勉強したのは2年前。

まだまだあまり慣れない手話で雫に単語を並べて伝える。


それを確かめるように雫が声に出す。


「……私、陸翔、気持ち、伝える…?」


コクン。


私が頷くと、雫はパッと花が咲いたように笑う。


「…信じてた…美和のこと。」


その目には、かすかに涙が浮かんでいて……


自分がどれだけ雫に心配をかけたか、不安にさせたか……

雫の表情から分かってしまった。


“…雫、ありがとう…”









「いつ…伝えるの…?」


いつ………?


「…まさか、“伝える”ってことだけ決めて“いつ”を考えてなかったんだ?」

核心を突く雫の一言。

しまった。
まったく考えてなかった。


コクン。


雫の一言に私は静かに頷く。

「……やっぱりね。ま、ゆっくりよ。焦ったりしちゃダメ。分かった?」


優しく私を見据える雫。

コクン。

私は頷きながら“分かった”と伝えた。


「……って言うか、もうすぐ夏休みだよ?いっぱいいっぱい、遊ばなきゃね?」


ニコッと笑う雫。

相変わらず可愛い。


“うんっ!!”

そんな雫に私は笑顔で答えた。






「もちろん、坂井くんともね♪」


イタズラっぽく笑う雫。

“坂井くんともね♪”

え……?
陸翔と………?


“え!?”

私は口で……って言うか顔で驚いた表情をしてしまった。


すると雫がニヤニヤとしながら、
「だって、“好き”に変わりはないんでしょ?」


挑発するように笑う雫。


「……///」
コクン。

私は真っ赤になりながら頷く。


「だったら、遊ばなきゃ。好きな人とは少しでも長く、多く、一緒にいたいでしょう?」


心の内を見透かされている感じ。

雫に分からないこととかってあるのかな?

そんな風に思いながらも、真っ赤な顔で頷いた。



やっぱり、雫には適わないなぁ。






って言うか、雫には好きな人とかいないのかな……?


なんか私ばっかり恋バナしちゃったけど、雫ってあんまり自分のこと話さないよなぁ。


そんな雫にちょっぴり寂しくなりながらも、一か八かで雫に好きな人を聞くことにした。


“雫”

私は再び雫に話しかける。

「ん…?」

なぁに?とでも言わんばかりに首を傾げる雫。

もしかしたら、言ってくれないかもしれない……

だけど、雫を信じたい。

私たち、親友だもん…!!
聞いちゃえ……!!


“雫、好きな人、いる、?”


精一杯の手話で伝えると、雫の顔が一気に真っ赤になる。


こんな雫、初めてみたかも!!


そう思いながら雫の返事を待つ。






「………いる///」


俯きながら呟く雫。

話して、くれた…!!
そのことだけで私は嬉しくて舞い上がる。

「……あれ?」

突然、すっとんきょうな声を出す雫。

“……?”

雫の言葉を待っていると、

「私、美和に話してなかったっけ?」

キョトンとなる。


“私、美和に話してなかったっけ”…?


そんな一言に驚きながらも、うれしさが込み上げる。

良かった。
雫は、話そうと思っててくれたんだ。

私は思わずニヤニヤしてしまった。

すると雫が、
「なぁにニヤニヤしてんのよっ」

チョップもどきをして来た雫。
雫には言わないけど、すっごく嬉しいんだからね…?


“えへへ”

私が肩をすくめて笑うと、雫も笑った。