水野くんが考えた作り話はこう。
登校中、道端におばあさんが倒れていたので付き添っていた。
という。
信じてくれるか半信半疑だったけど……
さすが保体の夏井先生。
簡単に信じちゃいましたよ……
ま、私と水野くんは優等生だし、嘘をついてるとは思わないよね。
ってか坂井くん、どうしよう。
1人焦っていると、
「陸翔なら、おばあさんに付き添って病院まで行きましたよ。陸翔は優しいヤツなんで」
そう言ってニッコリ笑う水野くんは、とても嘘をついてるようには見えなかった。
水野くん、すごい演技力……
目の前で繰り広げられる嘘、それに騙される担任。
複雑な心境だわ。
ま、とりあえずは良かった。
あとは坂井くんに口裏合わせしとけばバッチリね。
「失礼しました」
そう言って職員室の扉を閉める。
期末考査、明日特別に受けられるようになった。
「…水野くん、すごかったね。あんな嘘、大丈夫なの?」
水野くんに尋ねると、
「ん…?大丈夫。俺のお父さん病院の院長だから。どうにでもなるかな」
ニコニコしながら答える水野くん。
「……水野医院だ…」
あそこ、水野くんのお父さんの病院だったんだ……。
水野くん、すっごく頼りになるな。
そんな風に思った。
「…だからさ…何とかなったから、明日からは目一杯の笑顔で過ごして。やっぱり長野には、笑顔が似合うから。」
また、困ったように笑う水野くん。
「笑ってね…?」
私の顔を覗き込み、尋ねる水野くん。
そんな水野くんにドキッとしながらも、私は水野くんに答える。
「…分かった」
私に出来る限りの、精いっぱいの笑顔で。
、
美和side
ピーンポーン……
響き渡るチャイム。
誰だろう…
今日は平日だし、今はまだ10時前。
もちろんのこと両親は仕事に出かけている。
出なきゃダメかな……
居留守、使っちゃおうかな………
そんな風に考えていた時、玄関の扉が叩かれる音がした。
居るの、バレてるみたい…
えぇい出ちゃえ!!
そんな感じで扉を開いた。
すると……
「…美和っ!!…はぁ…はぁ」
息を切らした陸翔がいた。
なんで…?
今日は学校だよ、テストだよ?
制服を着ている陸翔。
もしかして、学校から走って来たの…?
そんな姿に胸がキュッと締め付けられた。
「話、しに来た…。上がっても…?」
遠慮がちに尋ねる陸翔。
話、ってなんだろう……
よく分からなかったけど、コクンと頷き家の中に陸翔を入れた。
「…お邪魔しまーす…」
キョロキョロしながら靴を脱ぐ陸翔。
緊張、してるのかな……
そんな風に思いながらも陸翔を部屋に案内した。
「………」
「………」
さっきから黙りっぱなし。
って言うか、男の子を部屋にあげたの初めてだから緊張するよ……!!!
家、教えたの雫だよね……!?
あとで問い詰めてやる…!!
「……あのさ」
急に陸翔が話し出す。
「…?」
話せない、相槌すら打てない私は首を傾けるだけ。
「長野から話、聞いた…。」
目を伏せながら話す陸翔。
そっか……
聞いちゃったのか……
でも、不思議と嫌じゃなかった。
陸翔だからか、嫌じゃなかった。
「俺は…なにも出来ない…」
そう言って眉を下げる陸翔。
“そんなことない”
言いたいけど、言えない。
そんな気持ちを表すよいに首を横に振る。
陸翔は、いつも私を助けてくれる。
分かってくれる。
私はそんな陸翔に感謝してる。
なのに、陸翔にこんな顔させてるのも私。
「なにも出来ないけど、俺は美和の支えになりたい……」
拳を握りしめながら誓うように呟く陸翔。
そんなこと言ってくれる人、初めて……
たくさんの初めてに、思わず涙が溢れた。
「泣くなよ……」
スッと私の涙を人差し指で拭ってくれる陸翔。
「…俺ね…?…
美和のこと、大切だよ。
美和のこと、好き。だよ……」
え…………?
陸翔が、私を………??
「……ごめん、こんなことを言うつもりじゃなかったんだ……」
頭をクシャクシャとする陸翔。
本当に………?
「………」
嬉しい。
好きな人に“好き”って言ってもらえるのって、こんなにも嬉しいことなんだ。
……だけど。
私は陸翔の気持ちに答えられない。
美波を傷つけておいて、幸せを奪っておいて、自分だけ幸せになるなんて出来ない。
だから陸翔、ごめんね。
こんな私を好きになってくれてありがと。
私なんかより、陸翔にはずっと良い人がいるから。
私の頬をツツーっと涙が伝う。
「美和……」
私の表情から察したのか、眉を下げる陸翔。
“ごめんね”
私は紙にそう書き、陸翔に渡した。
「……分かってたんだ。美和が俺を好きじゃないことくらい。」
突然、笑顔で話し出す陸翔。
だけど、その笑顔はニセモノで。
とても悲しそうに笑う陸翔。
やっぱり私は、好きな人を傷つけることしか出来ないんだ。
、
「……だけどさ、俺たちは友達のままだよな?だから、何かあったらいつでも頼って欲しいし、長野みたいに接してくれたら嬉しい。」
困ったように笑う陸翔に、私は頷くことしか出来なかった。
「…美和にはさ、長野がいて、直人がいて…家族がいて……俺がいるだろ?」
突然の投げかけに、コクンと頷く。
「…だから、何かあったらちゃんと頼れよ…」
そう言って私の頭をクシャクシャと撫でながら立ち上がる陸翔。
「…じゃあ俺、学校行くな。美和はどうする?休む?」
そう優しく問いかける陸翔に、“行きたい”という感情が芽生えた。
だけど……
私は顔をブンブンと横にふる。
「そっか…分かった。じゃあ、またな」
そう言って部屋から出て行く陸翔。
私はその背中を見つめることしか出来なかった。
、
陸翔side
ガチャン。
美和の家から出る。
「ふぅー…」
結局俺はなにをしに来たんだか……
長野から話を聞いて、いてもたっても居られなくて屋上を飛び出した。
だけど、美和に何か特別なことを言ってやることも出来なかった。
挙げ句に、自分の気持ちまで言っちまったし……
「カッコ悪ぃ……」
1人落ち込みながら学校へ向かう。
って言うか、サボっちゃおうかな……
いやいやダメダメ。
ちゃんと行かなきゃ。
直人と長野にちゃんと報告しなきゃだよな。
そうして俺は重い足を引きずるように学校へ進んだ。
、
、