-キミの声が聞きたくて-



「美和、どれで迷ってる?」


俺が美和に聞くと、美和が2つを指差した。

“チョコバナナ”と“いちご”


“うーん…”と悩んでいる美和。

「俺と、はんぶんこにしよっか?」
何気なく言ったのに、

「~…///」
真っ赤になる美和。


え!?
俺なんか変なこと言った!!?


コクン。
真っ赤な顔で頷き、“ありがとう”って口パク言う美和。


「じゃあ、並ぶか」


俺はそう言って美和の手をとり直人たちの元へ向かった。







美和side

今日は陸翔たちと駅前に出来たばかりのクレープ屋さんに来てます。


雫とショーケースにへばりつき、クレープを眺める。


どうしようかな……
いちごも食べたいけど、チョコバナナも食べたい。


私、食い意地はってるよね……

そう考えていると雫が、
「美和、何にするか決まった?」

と聞いて来た。


うーん……


“まだ迷い中”と目で伝えると、“わかった”って笑ってくれた。


それから、気づいたら雫は水野くんを引っ張って列の方へ行ってしまっていた。


すると陸翔が、

「美和、どれで迷ってる?」

と聞いてきた。

私はいちごとチョコバナナを指差した。
そしたら陸翔が


「俺と、はんぶんこにしよっか?」

と言ってくれた。






嬉しくて、恥ずかしくて、顔が真っ赤になっていくのが分かる。


それを隠すために大きく頷き、“ありがとう”と言った。


「じゃあ、並ぶか」


陸翔はそう言うと、私の手を引き列に向かった。



うわ、恥ずかしい……//


でも、嬉しいなぁ。

好きな人と一緒にいられるだけでも嬉しいのに、手を握ってもらえちゃうなんて///


お店にいる間私はテンションが高くなって終始ニコニコだった。






陸翔side


店を出ると頬をかすめる生暖かい風。

空を見ると今にも雨が降り出しそうで。


ふと横を見るとやっぱり美和は不安そうな顔をしていて。


声をかけようかすごく悩んだ。

が、止めた。

美和のすぐ横にいる長野が美和を見ながら悲しんでいるような、後悔しているような表情をしていたから。


まただ。


この2人、何かあったみたいだな……

俺に美和のこと話すときもそんな表情をしていた長野。


あの時の長野の言葉を思い出す。

“色々”ねぇ……


まぁ、いつか教えてくれるよな?



俺自身も雨が嫌いなため、このまま降らないことを祈った。






「今からどこ行く?まだ5時すぎだよ~」
と、無理にテンションをあげる長野。


「せっかく駅前にいるんだし、もうちょっと遊んでこーぜっ」

直人もテンション高めで俺らに促す。


「そうだなっ。美和と長野はどっか行きたいところとか無いの?」

俺も、少しでも美和に笑顔でいて欲しかったからテンションをあげて2人に尋ねる。


「……」
悩んでいる様子の美和。

「そうね~……」
長野も同様に悩んでいる。



「どうすっかな~……」
直人も悩み始める。


最近よく遊ぶから駅前はほぼ制覇した。


どうしようかな……

そう考えていると、ふと後ろから声がした。




「美和……雫…?」





その声のした方をみる2人。


そんな2人の表情は強張っている。

誰だ……??

俺と直人は検討もつかず頭の上は“?”だらけ。


そんな中、口を開いたのは長野だった。





「…夏美………」








夏美……?


誰だ?
美和と長野の友だち…ではなさそうだな。

ふと美和を見ると今にも泣き出してしまいそうで。


「やだ、2人とも彼氏いるんだぁ。良かったねぇ、美和、雫。」


そう言って2人の肩に手を置く夏美ってヤツ。


パシン。

空を切ったような音が響く。


長野が夏美ってヤツの手を振り払う。


「いったぁーい。何するのよ雫。」

「止めて!!!これ以上私たちに関わらないで!!」

キッと夏美ってヤツを睨みつける長野。


その瞬間。

ポツ。

俺の頬に冷たいものが落ちる。


「雨……」

直人が呟く。


「…ま、いいわ。今日は許してあげるわ。“またね”」


夏美ってヤツはそれだけ言うとどこかに走って行った。






「美和っ!!?」


長野が美和を揺する。

だけど美和はビクともせずにどこか一点を見つめている。


「美和っ!」
「真田ちゃん!!」


俺と直人も美和に駆け寄る。


「美和!!」
長野が美和を見据える。


すると、ハッとする美和。


「……」
長野に手話をする美和。


俺も直人も手話なんて分からないからチンプンカンプン。

美和、手話とか使うんだな……
美和のことわかってきたとか言っといて、知らないことがあって。

ショックだった。

突然、長野がコクン。と頷いた。
「……わかった」

そして美和が俺たちに“バイバイ”と言って走り去る。


「美和!?」

俺は驚いて美和を呼び止めようとした。


だけど、長野に制された。

「今日は、1人にしてあげて……」

俯きながら呟く長野。


「私も…帰るねっ…バイバイ」


そう言って長野も帰ってしまった。





残された俺と直人。

ザーー……

雨は勢いを増して強く降り出す。


「……俺、何にも出来ねえじゃん」

直人が呟く。


「……俺だって、好きな奴にあんな顔させて何も出来なかった……」



俺は、もう二度と美和にあんな顔させたくない。



きっと直人もそうだ。

長野にあんな顔、させたくないに決まってる。


俺たちは雨の中、しばらく動けなかった。







翌日。

家を早く出た俺と直人は登校中に出会ったため、一緒に学校向かった。


「いつも通りで…いいんだよな…??」

直人が困ったように笑う。


「それが…1番だろ…?」
俺も直人に笑いかけた。

大好きな人に笑顔になってもらいたい。

そのためにも、俺たちから“笑顔”を広げよう。


そう考えたんだ。


「よし、頑張ろうな!!陸翔っ」
「おぅ」


直人は少し天然なところがある。

そこが女子のツボらしいんだけど。


俺は何度も天然な直人に救われた。

だから、美和や長野も直人の力で。


ううん。
俺と直人の力で、救いたい。


今なら、過去が聞けるかもしれない。


俺は密かにそう思っていた。