朝になり、ワクワクしながら制服に袖を通す。
今日から、坂井くん……じゃなくて
り、りりり、陸翔///
って、呼んでいいんだよね!?
それに、美和って呼んでくれるんだよね?!
すっごく、すっごく嬉しい。
早く学校に行きたい。
そんな思いで早起きだってした。
いつもより10分も早いけど、お母さんに「何をソワソワしてるの」って言われたけど、気にしない。
だって、それくらい学校が楽しみなんだから。
「気をつけるのよ」
なんて何年ぶりに言われただろう。
お母さんの言葉にも嬉しくなりながらも、軽い足取りで学校へ向かった。
ガラガラ。
教室に入ると2、3人くらいしか居なかった。
もちろん、その中に陸翔がいるワケもなく。
少しガッカリしながらも、そりゃそうかと納得し席に着いた。
すると、
ガラガラガラっ
教室の扉が勢い良く開いた。
私はバッと扉の方を見る。
すると、
「はぁ…はぁ……」
息を切らしながらこちらに歩いてくる陸翔。
そして、陸翔は私の前にある彼の席に座った。
「ふぅっ……おはよ」
そう言って右手を頭の位置くらいに挙げ、私を見つめる。
ハイタッチめいた事。だよね。
私はポスッと陸翔の右手に左手を重ねる。
触れ合う手と手。
陸翔の手が触れてる場所が熱い。
陸翔の見つめる顔が熱い。
「…ちゃんと、“おはよー”だ。」
低く透き通る陸翔の声。
一言一言が私の心にジーンと響く。
ニッコリ笑う顔はやっぱり少年みたいに幼くて、可愛い。
女子のみんなから人気なのが良く分かる。
だって陸翔、顔だけじゃないんだもん。
顔もカッコいいのに、心も優しくて、暖かいんだもん。
好きに、なっちゃうよね。
そんなことを考えていると、自然と笑みがこぼれた。
「なーに笑ってんだか」
ポスッと頭を叩かれた。
だけど、全然痛くなかった。
いやじゃなかった。
むしろ、嬉しかった。
あんなに遠くに感じていた“坂井くん”が、今はこんなにも近くにいる。
手を伸ばせば、届いちゃうんだ。
“坂井くん”から“陸翔”になって。
頭に触れられるくらい、近くなったんだ。
それに嬉しくなった。
「美和」
突然、陸翔に名前を呼ばれる。
ドクン。
心臓の音が聞こえるんじゃないかってくらい、ドクンドクン。とうるさい。
“なに??”
心の中で言いながら、言葉にならない声の代わりに
「……?」
首を傾げる。
「何でもない♪」
陸翔がそんな思いがけない意地悪を言うものだから、なんだか嬉しくなった。
“美和”
今の声、多分、ううん、絶対。
一生忘れない。
美和と仲良くなって数日。
俺と直人、美和と長野で放課後よく遊ぶようになった。
もうすぐ梅雨だというのに俺たちはほぼ毎日のように遊ぶ。
ファミレスに行ったり、ゲームセンターに行ったり。
美和も楽しそうに笑ってるし、それを見た俺と長野も嬉しくなる。
ついでに言えば笑顔の長野を見るたびに直人が優しく笑うんだ。
もしかして。
そんな風に思い、直人に聞こうと思った
……けど、止めた。
直人は俺が“相談がある”と言った時、“待ってた”と言ってくれた。
だから……
だから、俺も直人を“待つ”から。
もうずっと一緒なんだ。
直人のこと、もっとわかってやれるようになるからな。
と、心の中で決意した。
そして、6月も始め。
「陸翔♪」
ハイテンションな直人が俺の肩を叩いてきた。
「…んだよ」
若干不機嫌な俺。
理由はって…??
「…陸翔、雨が降りそうだからって、んな顔すんなよ~」
直人が頭をヨシヨシしてくる。
そう、俺は雨が大嫌い。
荷物増えるし(傘とか)
風呂とかプールとか以外で濡れるのは好きじゃない。
そして、
梅雨に入ってから美和が時折悲しそうに窓の外を見てるから。
元気のない美和をみて、何も出来ない自分に腹が立つんだ。
「……雨の日に、さ。言うことじゃねーんだけどさ……」
俯きながらモジモジする直人。
もしかして。
「………陸翔に、ご報告が。」
そんな直人に俺はすかさず
「……“待ってた”よ??」
そう言った。
そんな俺を見て、嬉しそうに笑う直人。
「うん……お待たせ」
恥ずかしそうに笑い、直人は俺を席から立たせ、教室の端に連れて行く。
「………俺、な??」
さっきからそればかりで何も言わない直人。
“大丈夫、俺は待ってる”
恥ずかしそうにモジモジしていれ直人に目で伝えた。
すると、意を決したように直人が話し出す。
「…俺…
………長野が好きだ。」
精一杯伝えてくれた直人に俺は、嬉しさのあまり笑顔で
「……そうか」
そう呟いた。
そんな俺を見て直人も嬉しそうに、恥ずかしそうに笑った。
「頑張れ」
「……頑張る」
そんな言葉に、お互いに笑い合った。
美和side
私は雨が苦手。
と言うか、嫌い。
6月、梅雨に入り雨が降り出すたびに、胸がギュッと締め付けられるような感覚に襲われる。
まるで私に、
“忘れさせない”
そう言ってるみたいに。
忘れるなんて、出来ない。
私は、一生忘れちゃいけないの。
ザーーっ
雨音の中で、かすかに声が聞こえる。
《美和~!!》
《あははっ!美和ってば~》
《美和………信じてたのに》
ズキン。
頭が痛くなる。
“美和………信じてたのに”
その言葉が頭の中でエンドレスに流れる。
助けて、助けて、助けて。
私は頭を抱えて、目をギュッと瞑っていた。
「美和……?」
突然、頭上からハスキーで透き通る、でも優しい声が聞こえた。
バッと目を開けると、陸翔が心配そうに私を見ていた。
「大丈夫、か…?どっか、痛い?」
頭を優しく撫でてくれる陸翔。
ブンブン。
私は首を横に振った。
そして、
“大丈夫”と口パクで伝えた。
すると、
「本当に…??無理、すんなよ」
陸翔はそれだけ言うと、頭をポンポンと優しく撫でてくれた。
そんな陸翔に胸が、心が、身体が。
暖かくなった。
ありがとう、陸翔。