ゆっくりと病院への道のりを歩く私と雫。
「……ところで、」
私が雫に話しかけると、雫は“ん?”と首を傾げながらコチラを見た。
「…今日、水野くんは?」
「あぁ。直人、先生に呼び出されちゃって。遅れてくるんだってー」
残念。と呟く雫。
雫は夏休みから、ヒマを見つけては陸翔のお見舞いに来てくれる。
もちろん、水野くんも。
2人には本当に、感謝している。
私を、ずっと支えてくれてる。
昔から、そうだ。
雫は、私のことを誰よりわかってくれてる。
自慢の親友は、学校からこうして手を繋いだまま歩いてくれてる。
なんだか、昔みたいで懐かしいなぁ。
なんて………
そうそう、学校か、ら……!?
「あ!!!!!!」
「きゃっ」
突然の私の叫び声に雫がびくりと肩を揺らす。
「な、なにごと!?」
立ち止まり、私の肩を揺する雫。
「………学校…
「………学校に、か…か、か、か、か……カバン、忘れた………」
「はぁ?!」
「だ、だって…雫が急に手を引くから…」
「人のせいにすなっ」
「…うぅ…」
ど、どうしよう。
でもでもでも!!大丈夫だよね?
大したもの入ってな…………………
「家の鍵とか、財布とか……あぁ、携帯までカバンの中だ……」
「うわー。美和、携帯いじんないもんねー。ドンマイ、ドンマイ。」
肩をポンポンと雫に叩かれた。
い、1日くらい…大丈夫だよね?
ええい!!
カバンより何より陸翔が大事だっ!!
「…ま、いっか。カバンより陸翔。カバンより陸翔。」
自分に言い聞かせて、再び歩き出した。
その時、
「雫ぅーっ。真田さーんっ」
遠くから、私たちを呼ぶ声がした。
振り返るとそこには、
「直人っ」
「水野くん!」
水野くんがいた。
「へへ、走ったら追いついた。」
無邪気に笑う水野くん。
そんな水野くんに嬉しそうに笑う雫。
2人を見て、少しだけ寂しくなった。
私もこんな風に、陸翔と笑い合えたらいいのにな。
ちょっとだけ、ツラいな。
でも、我慢我慢。
「…あ、真田さん、これ」
そう言って水野くんがあるものを私に差し出す。
「「あ!!」」
カバンだ。
「うん。机にかかってたからね、忘れたのかなーって」
にこりと微笑む水野くん。
あぁ、アナタが神さまに見えます。
ありがとう、水野くん。
1人心の中で水野くんに感謝の意を述べていると、携帯が鳴った。
「…もしもし」
《あ、もしもし。陸翔の母ですけど…》
その電話は、陸翔のお母さんの翠さんからだった。
「こんにちは。どうかしましたか?」
《……り、陸翔がっ》
突然、泣いているかのように鼻をすする音が聞こえた。
そんな翠さんの声に、胸の高鳴りが止まない。
ドキドキと、鼓動が早くなる。
陸翔に、何かあったの…………?
《……陸翔がっ………………》
翠さんからの電話を切り、私は全力で病院まで走った。
「ちょ、美和!?」
「真田さんっ?!」
雫と水野くんの声が聞こえたけど、振り向いてなんかいられない。
「はぁ…っ…はぁ…っ」
運動部じゃない私は、ちょっと走っただけで息が上がった。
……だけど、
そんなことも気にならないくらい、頭の中は陸翔だけでいっぱいだった。
早く、早く陸翔のところに行かなきゃ。
陸翔が………陸翔がっ…………!!!
《目を覚ましたって………!!!》
「陸翔……っ!!!」
私は勢い良く病室の扉を開いた。
、
「…美和…?」
陸翔が、起きてる。
陸翔が、陸翔が……………!!
夢みたい。
信じられない。
夢じゃ、ないよね……?
「陸翔ぉ………」
私はたまらず、その場に座り込んだ。
涙が、止まらない。
ずっと、ずっとこの時を待ってた…
“目を覚ますか分かりません”
そう言われた日から、2ヶ月間。
ずっと、ずっと………
パッと陸翔の顔を見る。
「…え……」
「りく…と……?」
陸翔の焦点が、あっていない。
目を開けて、こちらを見ているのに…
陸翔と目が合わない。
なんで………?
ウソ、でしょう………?
「…大丈夫。」
突然、陸翔が話す。
「…しばらくすれば見えるようになるってさ。これは後遺症。」
力無く笑う陸翔。
後遺症……
「見える…ようになるんだよね…?」
「あぁ」
ニコッと笑う陸翔。
ウソではなさそうだ。
「これから、大変なんだ。胃が食事になれるまでがね」
困ったように笑う陸翔。
そっか。
2ヶ月くらい、何も食べてないんだ。
胃が、もたないよね。
「陸翔っ!?」
「坂井くん!?」
そこへ、雫と水野くんがやってきた。
「陸……」
嬉しそうに、“待ってたよ”とでも言っているような優しい目をする水野くん。
「あれ……?」
「陸…目……」
2人が、陸翔の異変に気づいた。
それから、陸翔は再び説明した。
「そっか…」
「…でも、目が醒めて本当に良かった」
3人、涙ながらに話をした。
もう、夏休みが終わったってことか。
陸翔、ビックリしてたっけ。
その後、翠さんが職場から来て、本当に本当に感動だった。
陸翔は、何度も涙を流しながら“もう、いいよ”って言ってた。
陸翔の思いも、翠さんの思いも、ちゃんと伝わったね。
本当に、良かった。