-キミの声が聞きたくて-




だから、
そんな愛しい君の声が聞きたくて……



俺は、勇気を振り絞って真田に声をかけた。


「真田!!」

あまりに意気込みすぎて、思っていたより大きな声が出た。


クスクス笑う真田。

「なぁなぁ真田。」

俺がそう言うと、

“なに?”
とでも言っているように首を傾げる真田。


あまりに喋らない真田に、俺はムキになったんだ。





「“水野直人”ってヤツ知ってる??」

俺が尋ねると、

ブンブン。
首を横に振る真田。

「俺とソイツね、中1の時からずっと同じクラスなんだぜ??腐れ縁ってこういう事だよな」

そう言うと、

“へー”
と言った感じに頷く真田。



何でだ……??

何で、話さないんだよ……



俺は不思議に思いながらも、たくさんたくさん真田に話しかけた。



だけど、その間も真田から声を聞くことは出来なかった。





そして昼休み。

俺はトイレから教室に帰っていた。
すると、

「坂井くん!!」
後ろから声をかけられた。

振り返るとそこには、見たことある女子がいた。

「えっと……」


誰だっけ??とは言えずに戸惑っていると、

「あ!私は長野雫(ながのしずく)!一応同じクラスなんだけど……」

ああ、思い出した。

いつも真田といる人だ。

で、その長野が何の用だろう。


「そうそう!!忘れるところだった!!坂井くんに聞きたいことがあるんだけど……」


突然、真剣な顔になる長野。


ゴクン。
思わず息をのんだ。




「坂井くんは、美和のこと知ってる?」

突然、そんな事を言われた。

“美和”……??
えーっと……………


あ、真田だ。
確か、“真田美和”だったよな。

「真田のこと…??無口、とか??」

俺がそう言うと、長野は驚いた顔をした。

何だろう。
実は無口じゃないとか…??


色んな想像をしながら、長野の言葉を待った。



「坂井くん、知らないの……??」




え……??

何を………??














「…知らなかったの?…“話さない”んじ
ゃなくて“話せない”んだよ…」







え……………???


真田が、“話せない”……??








「どういう…こと??」

ワケが分からず長野に尋ねた。

「…美和は……美和は、声を失ったの……」

俯きながらそう言う長野。

「失っ…た…?」


「美和、過去に色々あって……声、出なくなっちゃったの……」

そう呟く長野の表情は、どこか自分を責めているような、後悔しているような感じだった。


「色々…は、言えないんだろ…?」

長野の表情から俺は悟った。

“今は聞いちゃいけない”って。



「うん……坂井くん、ありがと」


それだけ言って長野は走っていった。



“話せない”か………






それでも……

それでも、君の声が聞きたいと思う俺はどうしたらいい??


こんなにも、好きになっちゃった俺はどうしたらいい??



直人に、相談してみようかな……



直人なら、聞いてくれるよな。






「直人。」

休み時間、
俺は直人の席に行き、相談しようと決意した。


「ん…?なんだ?」

椅子に座ったまま俺を見上げる直人。



「俺…俺さ。直人に…相談があるんだ」

俺の一言に直人は一度目を見開き、柔らかく笑った。


「……待ってたよ」

直人とは思えないような表情だった。



そっか。
俺、甘く見てたんだな。

直人と俺、もう長い付き合いじゃん。


親友じゃん。


俺のことくらい、お見通しだよな。



暖かい直人の表情に、自然と俺も笑顔になる。




「ずっと…待ってたんだ。」

困ったように笑う直人。


「あぁ…ありがとな」

やっぱり、コイツとダチで良かった。


コイツなら、俺のことを一番にわかってくれると思った。


「俺、な…?」


ポツリポツリと話し出す。


その間、直人は一言も話さずに真剣に俺の話を聞いてくれた。



ありがとな。