-キミの声が聞きたくて-



「どういう意味?」

「…私は、声が出なかったんです。過去に、色々あって……だけど、陸翔くんはそんな私を見放さずにずっと見守ってくれました。陸翔くんのおかげで、自分に負けない自分になれました。」

「そう……」

そのまま山城さんは黙ってしまった。


目の前の陸翔は、目を瞑ったまま。



「………私はね、昔、陸翔にヒドいことを言ったの。」

突然、陸翔を見つめながら話す山城さん。

「……陸翔に、ね。酔った勢いで“あんたなんか産まなきゃ良かった”なんて、言ってしまったの。」

山城さんの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「私、主人と離婚してね。まだ小さかった陸翔を連れて家を出たのよ。」

知らなかった。
陸翔、そんなことがあったなんて……


「…陸翔は、私がヒドいことを言っても目の前で泣いたりしなかった。どんなにヒドく陸翔に当たっても、陸翔は私の傍にいてくれた。」

「…陸翔くんは、暖かい人です。…優しい、人です。お母さんが、大好きなんだと思います。」

私がそう言うと、山城さんは泣き出した。







「…ヒドいことを言われてもお母さんから離れないのは、お母さんの苦労を知ってるから。

自分を大切にしてくれてることが、わかってるから。

ここまで、愛情を注いで育ててくれたからだと思います。」


「…アナタなら、安心だわ」

「え…?」

「陸翔は、幸せ者ね。アナタみたいな人に愛されて。」

涙をこぼしながら、山城さんは優しく笑った。









陸翔が入院してから次の日、学校は登校日だった。


「美和、おはよー」
何も知らない雫が話しかけて来た。


本当は、驚かしてあげたいけど…
やめた。

「…おはよ」



「……え………」

目をこれでもかってくらいに見開く雫。

「…も、もう一回。」
テンパってる雫に頼まれ、もう一回言った。

「おはよ、雫。」
「うきゃーーーーーっ」



朝から生徒玄関には雫の叫び声が響き渡った。


「雫…?」

突然、後ろから現れた水野くん。

「あ、真田さん。おはよー」
「おはよ、水野くん。」


「えーーーーーっ!!!!!」



雫同様、水野くんまで叫び声をあげる始末。


私は色んな人から注目された。









…………………………………

「そう、だったの……」

朝の教室、私は昨日の出来事を水野くんと雫に話した。


「今日、どうせ午前中までだしさ、3人でお見舞いに行こうか」

水野くんの提案に、私も雫も頷いた。

















それから、学校が終了して生徒玄関で靴を履いていると雫の動きが止まった。



「……美……和…」



「ん…?なーに」
「……あれって、あそこにいるのって」


そう言って雫が指差した場所。
私たちの通う、この高校の門である。

「…あれって………」

私はそこまで言い掛けて気づいた。



門の前にある人影に。



「…夏美……」











門の前に立つ夏美は、心なしか悲しそうにしていた。


「…夏美……」
私たちは夏美に近寄った。

すると、
「ご、ごめんなさい………っ!!」

夏美の目から溢れる涙。


ワケが、分からなかった。


「私…!私…!」

その場に泣き崩れる夏美。



「……とりあえず、場所かえよ」
そう言ったのは雫。

雫からは怒りが読み取れた。
私は、怒ってなんかいられなかった。



「…………うん」
雫の言葉に気弱そうに答えた夏美。



一体夏美は、何をしに来たのだろうか。
何を、謝っていたのだろうか。









それから私たちは公園に来た。

「……話は?」
雫が夏美に冷たくあたる。

「……私、自分が何をしたのか、分からなかったの……


あの時、目の前には大嫌いな美和の彼氏がいて


気がついたら、突き飛ばしてた……」



涙ながらに語る夏美。

だけど私は、夏美を許せない。
私の大切な人を、二度も傷つけた。


「……私、本当は美和のこと嫌いじゃなかったの……ううん、好きだったの……


美和にどんなことされても、嫌いになんてなれなかった。

優しくて、暖かい、美和が大好きなの…」

「…じゃあ、何で…!!」
雫が声を荒げる。



「……ずっと、友達だった美和をとられた気がしたの……」






「…最初は相馬くんを、とられたと思って恨んでた

だけど、気づいた。

私、相馬くんをとった美和にじゃなくて……

美和をとった相馬くんに嫉妬したんだ。って………」


え………?


「相馬くんが、私を好きじゃないことくらい気づいてたの」


「え……」

「私、私………っ


本当に、ごめんなさい…っ!!」


涙を流しながら頭を下げる夏美。
ウソを、ついてるようには見えなかった。

「……許さない…」



そう呟いたのは、私、だった。







「ちょ…美和……?」

雫は涙を溜めている。


「わかってる。許してもらおうなんて、考えてない……」

目を真っ赤にしている夏美。


「……“陸翔が目を醒ますまで”許さないから。」



私の一言に、夏美はもっと泣いた。
雫も、水野くんも驚いていた。


「……だから、陸翔が目を醒ましたら、1からやり直そ…?」

「ほ…っ…本当にいいの…?」

「うん。夏美が、私を大切に思ってくれてるなら、私だって夏美を大切にする」

「う…っ…ありがとう…」