-キミの声が聞きたくて-


























































どうして夏美がここにいるの……………?


























陸翔の後ろに立つ夏美。

そんな夏美に陸翔は気づいていない。



――――――嫌な予感がする。





陸翔、気づいて……!!
後ろに夏美がいるよ……!!

気づいて、気づいて、気づいて…!!!




ジッと陸翔を見つめる。
陸翔は私に笑顔を向けているけど、私は陸翔に笑顔を向けられない。



そこで、ふと夏美と目が合う。




背筋が凍りつくようだった。


こんなにも暑い7月の昼。
なのに私の身体は冷えていく。

暑さを感じない。


夏美から目が離せないでいると、夏美が何かに気づいた。


―――気づいてしまった。


夏美の前にいる人が、陸翔だと。


“私の大好きな人”だと。

夏美はニヤリと笑う。




どうしよう。どうしよう。


―――嫌な予感が、トマラナイ―――











































































































「いや―――っ!!!」

































私が、久しぶりに声を出したのは悲惨にもこんな時だった。



「陸翔!陸翔!」

陸翔に駆け寄り、必死に陸翔の身体を揺する。


「……………」

だけど、陸翔は何も応えない。


陸翔……!!陸翔!

信じられない。
今、目の前で起きてることは現実…?


頭から血を流して、道路に横たわってるのは、本当に陸翔……?



私の大事な、大切な陸翔を道路へ突き飛ばしたのは誰?


チラリと辺りを見回す。

そこにはやっぱり夏美がいて………


夏美、どうして……?
突き飛ばすなら、私にしてよ……


どうして夏美は、私の大切な人ばかりを傷つけるの……?


それは、人間がやることなの………?

夏美には、“心”があるの……?


私は今、何も出来ない。
夏美をにらむことしか、力無く陸翔を呼び、揺することしか出来ない。


久しぶりに出た私の声は、こんな声だったのかと思い知らせた。



そして、嬉しいはずなのに、嬉しいと思わせてくれない……







それからしばらくして救急車がやって来た。


陸翔は担架に乗せられ、救急車に乗せられる。

私も一緒に乗り込む。


夏の暑いスクランブル交差点に救急車の音が鳴り響く。



「こちらの男性の名前は?」

救急隊員の人に話しかけられる。


「坂、井…り、くと」

何年かぶりに出した私の声は、震えるだけでなく掠れていた。


声を出すことが当たり前じゃなかった毎日。

そんな時、急に戻った私の声。
声を出すことに慣れてなくて、すぐに喉が痛くなった。


酸素マスクをしている陸翔。
そんな陸翔は先ほどと打って変わって荒々しく呼吸を繰り返している。

救急隊員の人は2人いて、1人は必死に陸翔の世話を、もう1人は何かを書き綴っていた。

「坂井さんの年齢は?それから、事故の詳細を…」

1人の救急隊員の人が尋ねてきた。


「年は16歳で、事故の詳細は………」



私は、そこで話すのを止めた。







“突き飛ばされた”


そう言うべきなのか。
すごく迷った。


だけど。

「……人混みに、押されちゃったんだと思います…」


そんなこと言ったって、何も変わらない。
言ったところで、事故に遭う前には戻れないから。

だから、言わなかった。

「そうですか、分かりました」

救急隊の人はそれ以上、何も言わなかった。




陸翔、お願い。
目を開けてよ…………











病院に運ばれてからすぐに、陸翔は集中治療室へと入れられた。


「陸翔…………」


私は消えそうなくらい小さな声で陸翔の名前を呼んだ。


集中治療室の前においてあるいすに腰掛け、手を合わせて祈った。


陸翔、どうか無事でいて………
















どれくらい待ったか分からない。


ただ、ひたすらに祈った。



そして、集中治療室のランプが消えた。





中から病院の先生らしき人が出てきた。