-キミの声が聞きたくて-



陸翔とバイバイしてから約25分。

私は荷物を片付け終え、ソワソワが止まらない。


な、なんか緊張するなぁ……

鏡の前で何度も格好を確認する。

ポニーテールの髪はゆるフワにまいてある。

青と白のストライプの短めワンピ。
夏らしいバッグを肩から提げ、靴はちょっとだけヒールが高いサンダル。


日焼け止めはしっかり塗ったし、大丈夫だよね?


トイレはいったし、お化粧もバッチリ。


おかしいトコロはない。……はず。


ソワソワ、ウロウロ。
部屋の中を行ったり来たり。

そんな時、
“ピーンポーン”

私の心音とは打って変わって、思ったよりゆっくりなチャイム音が部屋中に響き渡る。


陸翔だ……!!!


私はダッシュで階段を駆け下りた。









ガチャン。

扉を開けるとそこには、汗だくの陸翔。

「ごめっ…遅く…なった」
はぁはぁと息を切らしながら自分を手のひらであおぐ陸翔。


“ちょっと上がってく?”
玄関にあるホワイトボードに私がそう書き陸翔に見せると、


「いいの…?」

ビックリしている陸翔。

“お昼ご飯、食べていって”
「マジ……?」

一瞬、嬉しそうな顔をする陸翔。
期待しちゃうよ……


“美味しく出来るかは分からないけどね”
そう書きながら笑みをこぼすと、陸翔は「そりゃ楽しみだ」って笑った。

今気づいたけど……
陸翔、着替えてる。


TシャツにGパン姿というなんともラフな格好なのに、こんなにもカッコいいのは何でだろう……


あ、そっか。
陸翔だからか。

……なんて。
舞い上がっちゃうよ。







それから、“夏と言ったら冷たいものだよね!”と言う独断と偏見で冷やし中華を作ることに。


私が台所で調理をしている間、陸翔はリビングで待っていてもらった。


カランコロンとコップの中で氷も踊る。

陸翔の前に出来上がった冷やし中華と麦茶をおいた。


「ありがと」

そう言って最高のスマイルを見せてくれる陸翔。

カッコいい………


“いただきます”
「いただきます」

2人で手を合わせていただきますをした。

それから、お昼のバラエティー番組を見ながら2人で冷やし中華を食べた。







「ごちそうさまです」

私より一足先に陸翔が冷やし中華を完食した。

「美和、料理巧いのな」
私を見ながら話す陸翔。

そんなことはないと思うけど、陸翔にそう言ってもらえると嬉しいな。


それから暫くして私も冷やし中華を完食した。


片付けをしていると、陸翔が“ご飯のお礼に”って食器洗いを手伝ってくれた。

こういうトコ、尊敬しちゃうな。


「……どっか、行こうか」



突然陸翔が言い出した。

“どっか行こうか”
これって、デートのお誘いだよね?


すごくすごく嬉しい。

“コクン”
私は陸翔に大きく頷いた。



「どこか…行きたい場所ある?」

優しい陸翔は何でも私を優先してくれる。

“陸翔と一緒なら、どこでも”


ゆっくりと口パクでそう伝えると、陸翔は真っ赤になった。







「じゃあ…まだお昼時だし、映画でも見に行く…?」

控えめに尋ねる陸翔。
映画かぁ……
暫く見に行ってないから、行きたいかも!


“いく!!”

口パクで伝えると陸翔は笑顔になった。

「じゃあ、映画館、行くか」
そう言って陸翔は立ち上がる。

それにならって私も立ち上がる。





私が玄関の鍵をしめていると、陸翔が“お邪魔しました”なんて律儀に挨拶をしていた。


こう言うところも、陸翔の良いところだよね。


「あちーな」

満面の笑みで私にそう言う陸翔。


うん。本当に暑い。
七月ってこんなに暑かったっけ?


セミはずっと鳴いてるし、太陽はジリジリと照りつける。


8月、暑すぎて倒れるかも…………
なんて憂鬱になりながらも映画館への道を歩いた。





陸翔side


「ん…//」

恥ずかしい気持ちを必死に隠して、一生懸命にやった俺の一言。

“ん”って…………

そんな自分に情けなくなりながらも、差し出した右手。


美和、手、繋いでくれるかな……?


ドキドキしながらちらりと美和をみた。


「……///」
真っ赤な顔をした美和。

う……//
俺が照れるし………



―――――ギュッ


美和が俯いたまま俺の手を握り返す。

右手がジンジンと熱い。
美和の手と重なる部分がドクドクと音をたてるように脈打つ。



「行くぞ……」


恥ずかしさを隠すためにちょっとだけ美和の先を歩く。






信号が赤になり、渡りそこねた俺たちは青になるまで待つ。


ここの信号、スクランブル交差点ってこともあってか赤の時間がなげぇんだよな……

そんな中でもしっかりと繋がれた俺と美和の手。


カレカノって感じで、なんだかちょっとふふんって感じ。





そして、信号が青になった。












青になった信号。
一斉に両側から人が歩き出す。











「あ……」


















美和side




行き交う人たちの流れに逆らえなかった私たちは、手を、離してしまった。



陸翔………!!!



そのまま人ごみに揉まれ、陸翔と私は反対側にいってしまった。





信号は赤になり、私と陸翔は見つめあう。

お互いに、目を逸らしてはいけない気がして。



信号を渡りきった陸翔。
信号を渡りきれず、先ほどの場所に戻ってしまった私。





目の前ではたくさんの車やバス、バイク、トラックなどが行き交う。





そして、大きなバスが目の前を通過する。

一瞬だけ遮られた視界。

バスが通り過ぎた後、すぐさま陸翔を見る。






ドクン。



心臓が大きく脈打つ。





頭がだんだんと冷たくなるような感覚に襲われる。