-キミの声が聞きたくて-

美和side


「ふぁ~~よく寝たぁ~」

「おは~」

あくびをしながらリビングに入ってくる陸翔と水野くん。


「おはよう直人、坂井くん!朝ご飯出来てるよ~」

と、2人に声をかける雫。


うん、良い嫁。
一人で頷いていると、陸翔が目の前にやって来た。


「……うす」

そう言って右手をあげる陸翔。

これって………


私はつい嬉しくなって、笑顔になる。

そして、
――――ポスッ 。

「ん、よし」
そう言ってにっこり笑う陸翔。

ハイタッチめいたこと。
やってくれるなんて思わなかった。


嬉しいなぁ。

思わずニヤニヤしちゃうと、すかさず雫が突っ込む。

「朝からイチャイチャしちゃって~」

「陸ってばやるぅ~」


雫の悪のりに便乗する水野くん。


は、恥ずかしーっ//






それから4人で朝食をとった。

「10時ごろに迎えに来るって」
携帯片手にそういう水野くん。

お泊まり会もあと2時間で終了となる。


今までずっと一緒にいた人って、離れがたいよね……


でも、大丈夫。
会おうと思えばいつでも会えるよね?


陸翔は私の“彼氏”なんだよね。

なんだかむず痒い。


「美和、夏休み、いっぱい遊ぼーな」

ニカッと少年のように笑う陸翔。
か、可愛い……!!!

あんまり見たことのない陸翔にドキドキが止まらない。

だけど、納得のいかない人が2人……

「だめね」
「だめだめだな」


「は……?」



すっとんきょうな声を出す陸翔。







「おしいわね…“夏休み、いっぱいいっぱい”……までは良かったのよ」

雫が腕を組みながらウンウンと頷く。

「“いっぱいいっぱい、デートしような”とかあるだろ?!それをおまえは“遊ぼーな”って……」


え、えっと………
ま、いっか。


「なっ!!俺だって一生懸命なんだーっ」

終いには水野くんと暴れる陸翔。


こんな無邪気なところも、陸翔らしくていいなぁ。


「あの2人、本当仲良しね」
いつの間にか私の隣にいた雫がそうささやいた。


そんな雫に、

“私たちも、でしょ…?”

と手話で伝えると、“そうだった”と言って雫が私に抱きついた。


えへへ。

楽しいなぁ……









そんなこんなであっという間に10時になり、水野くんの専用リムジンみたいなのが別荘までお迎えにきました!!


「坂井くんたちも、夏祭り行くでしょ?」
「俺は行こうと思ってるけど……美和、ヒマ?」


本当に?!やった~!!
ブンブンと首を縦にふる。

「うん、じゃあ行こう」
ニカッと笑う陸翔。

う……///

こんなの毎日見てたら死んじゃうよ……


「俺たちも行こうな、雫」
「うん!!」

ははは。
ここもラブラブですなぁ。





夏休み、まだまだこれからです!!
なんて言ったって、今日は夏休み2日目。
たくさんたくさん、思い出作らないと。


夏祭り行って、海とかプールも行って、いっぱいいっぱいデートして………


今から待ちきれない。
こんなにも楽しいの、久しぶり。









「じゃあ、またな」
そう言って手をふる陸翔。

それに対してブンブンと手を振る私。

もぅ、バイバイか……
寂しい。

さっきまでずっと一緒に居たから。
なんだか離れがたい。


“もう少し一緒にいて”


そう言いたいのに、言えない。
私は声が出せないから。

ううん。
……もしかしたら、私はそれを言い訳にしてるだけなのかもしれない。


だけどやっぱり言い出せない。

“面倒な女”って、“重い”って思われたくないから。


陸翔の背中はどんどん遠くに行く。


私は家の前に立ち尽くしたまま、動けない。







とうとう陸翔は角を曲がりきり、見えなくなってしまった。


はぁ。

私はため息をついてから玄関の扉に手をかける。


そうだ、あとでメールしよう。
うん。

そう思ったときだった。





「美和……!!」






陸翔の声が響き渡る。


バッ振り返るとそこには陸翔がいた。

「はぁ…はぁ」
息が上がっている陸翔。

そんな大荷物で走ったんだ………
って言うか、なにか忘れものかな?








「今から…ひま…?」

両膝に手をついて肩を揺らす陸翔。


ちょっと、待って………
陸翔今、“今からひま”って、聞いた?


ってことは………
もしかしたら、もしかする………?


コクン、コクン。

首を縦に何回も振る。
今日は平日だから、どうせ家に帰っても誰もいない。

大人に夏休みなんてないし。

そう思って大いにうなずくと、陸翔は“良かった”って笑った。


「これから…俺とデートしない…?」


躊躇いがちに、照れながらも誘ってくれた陸翔。



“デート”


その響きに胸が高鳴る。
は、初デートだぁ……………


“する”

私は口パクで陸翔に伝えた。
すると、
「よっしゃーっ」

って陸翔がガッツポーズした。


ふふ、なんだか可愛い。








「なんか…さ。美和、帰したくなかった…」


俯きながら呟く陸翔。

“帰したくなかった”
そんなセリフに体中から湯気が出そうになった。


うわぁ~~~
絶対に顔真っ赤だよ……!!

「俺、荷物いえに置いてからまた迎えに来るから、待ってて……?」


“コクンコクン”

真っ赤な顔を隠すようにブンブンと頭を上下に動かす。



「んじゃ!!」
そう言って大きな荷物を軽々と持ち上げ、走り出した陸翔。


って、私も急がなきゃ!!!


それから私は急いで家に入り、荷物の片付けなどをした。










陸翔とバイバイしてから約25分。

私は荷物を片付け終え、ソワソワが止まらない。


な、なんか緊張するなぁ……

鏡の前で何度も格好を確認する。

ポニーテールの髪はゆるフワにまいてある。

青と白のストライプの短めワンピ。
夏らしいバッグを肩から提げ、靴はちょっとだけヒールが高いサンダル。


日焼け止めはしっかり塗ったし、大丈夫だよね?


トイレはいったし、お化粧もバッチリ。


おかしいトコロはない。……はず。


ソワソワ、ウロウロ。
部屋の中を行ったり来たり。

そんな時、
“ピーンポーン”

私の心音とは打って変わって、思ったよりゆっくりなチャイム音が部屋中に響き渡る。


陸翔だ……!!!


私はダッシュで階段を駆け下りた。