-キミの声が聞きたくて-



突然のことに、頭が混乱して泣き出してしまいそうになる。


「…これは…これは、俺の考えだけどさ…」


陸翔がしっかりと私を見据えている。


「……」

「俺は、嫌なことがあっても、忘れないようにしてる……」


何かを思い出すように話す陸翔。

「…それは、“自分”に負けないような、“強い自分”になるため。」


強い、自分……??
嫌な思い出を、忘れないことが大切なの……?



「…俺は、ちゃんと思い出を背負って生きて行きたいって思ってる。

これは、母さんからの受け売りだけど……

“ちゃんと思い出を背負って生きて行ける人は強い人だ”って。

例えば、すごくすごく楽しい思い出を忘れないのはもちろんだけど、悲しい思い出でも、忘れたいって願いたくなるような…苦しい思い出でも…」


陸翔は、そこまで言うと唇を噛みしめた。







「ちゃんと背負って、逃げないで生きて行けば……頑張っていれば、そんな思い出に負けない“強い自分”になれるって、俺は信じてる。」


ツー……っと、暖かいものが頬を伝うのがわかる。


陸翔はきっと、私なんかより辛い思いをたくさんしてきたんだよね……?


陸翔の瞳からも静かに涙がこぼれる。

「だから、美和が重みになれるまでは、一緒に背負ってあげる……」


そう言って私の涙を人差し指で拭ってくれる陸翔。


そんな陸翔に私はコクンと頷いた。


私、忘れないよ……
ちゃんと、背負うから。

……負けないよ。






ちゃんと、背負う。


だから、だから………
陸翔に気持ちを伝えてもいい……?

ちゃんと、自分も大切にする。

雫に言われた通り、私が美波の分まで幸せになる。


たとえ、この恋が実らなくても。

私は、陸翔のおかげで強くなれる。
だから、私は充分幸せだから。


私は立ち上がり、バーベキューセットがある場所まで向かう。

「美和……?」

突然立ち上がった私に驚いた陸翔が声をかける。

だけど、その声も無視してバーベキューセットのもとへ向かう。



バーベキューセットのところには、私の携帯がある。


声が出せないから、言葉で伝える。


陸翔はパーカーに携帯持ってたよね?



私は携帯をとると、すぐにメールを作成する。



たった一行の、短いメール。






陸翔は砂浜に立ち尽くしている。


そして私は送信ボタンを押した。








私の、精いっぱいの気持ちで。


私の、最大級の気持ちで。











《好き。》



それだけを、陸翔に送信した。








この気持ち、陸翔に―――…………







……………………―――届け。







陸翔side



俺は、精いっぱい、自分の思いを美和につたえた。


“1人じゃないよ”


伝わったかな。
不安に思っていると、急に美和が立ち上がった。

「美和……?」


声をかけたのに、美和は一切振り向かない。


その代わり、どんどんとバーベキューをしていた場所に向かう。


一体、どうしたのだろうか。

もしかしたら、怒らせてしまったのかもしれない。

泣かせてしまったから。
“忘れなくていい”なんて、人の気も知らないで、って思ったかもしれない。


どんどん不安になる。

すると、美和は携帯を取り、なにやらメールを打っているようだった。


美和が携帯をいじるのを止めてしばらくすると、俺の携帯が鳴った。


パーカーのポケットから携帯を取り出し、画面を確認すると、美和からメールが届いていることに気がついた。


俺はドキドキしながらも、美和からのメールを開いた。













《好き。》







たったそれだけの短いメール。

だけど、俺はそれを読むのに時間がかかった。


美和が、俺を……?


でも俺、一回フられてる。
夢、なのかな。

夢なら、すごく良い夢。

そう思いながら、自分の頬をつねる。

「い…たい…」


嘘だろ……?
こんな夢みたいなこと、ある?


体中の体温が一気に上がっていくのがわかる。


俺は走って美和のもとへ行く。


そして、真相を確かめた。



「はぁ…はぁ……ほ、本当に…?」



俺の言葉に真っ赤にる美和。
そんな顔されたら、期待しちゃうじゃん。

そんな風に思いながらも、美和を見つめていると、コクン。と美和が頷いた。


え、うなずくってことは………


本当に、本当……??




美和side


ちゃんと、伝わった。

だけど、陸翔がどう思ってるのか分からない。

陸翔の言葉を待つ。



「今の……取り消して…?」


陸翔の口から出たのは、そんな言葉だった。


やっぱり、ダメだったか……

陸翔はきっと、雫が好きなんだ。
あんなにも嬉しそうに雫のこと見てたもんね。


結構、キツいなぁ。

ヤバい、泣いちゃいそう。
出てくるな、涙。


必死に涙をこらえて上を向いていると、



「俺、美和のことがずっとずっと好きだった。」

突然、陸翔が私の肩を掴んで言う。


……好き“だった”。

その言葉が胸に引っかかる。


「……今も、好きだ。だから、俺と付き合って下さいっ」


顔を真っ赤にしていう陸翔。


え……?
“今も”って、言った?
“付き合って下さい”って、言った?


何がなんだか分からないけど、それって、つまり………両思い。なんだよね?








溢れ出る涙。

嬉しいよぉ。

「へ、返事は……?」

眉を八の字にして聞いてくる陸翔。
そんな陸翔に私は満面の笑みで頷いた。


“よろしくお願いします”


私が口パクでそう言うと、陸翔は笑顔になる。


「…美和…大好き…」


そう言って私を抱きしめる陸翔。


え!?

は、恥ずかしーっ////


ドキドキが、止まらないよ……///


ガバッと私を引き剥がす陸翔。

「や、あの、ごめん……///」
陸翔も真っ赤だった。


嬉しい。
私たち、付き合うんだよね?








………あれ?

“今の、取り消して”って、何……?


私は突然、さっきの陸翔の言葉が気になった。







私は握りしめていた携帯を再び開き、メールを作成する。

そんな私を不思議に思ったのか、首を傾げる陸翔。


そして、メールを送信せずにそのまま陸翔に見せた。


《“今の、取り消して”って、どういう意味…?》


「う…//」

画面を見せた途端に気まずそうにうつむく陸翔。


“教えてよ”

そう言う意味を込めて陸翔のパーカーをグイグイと引っ張る。


「だーっ!!分かったよ!!言うよ」

観念したように私を見つめる陸翔。


う、恥ずかしい………
そう思いながらも陸翔の言葉を待った。



「…ぃ…じゃん…//」


小さくて、今にも消えそうな声でつぶやく陸翔。


「……?」

聞こえず、首を傾げると、
「だから!!……カッコわりぃじゃん…//」



え……??