-キミの声が聞きたくて-


3人が腰かけているテーブルに座りながら、
「俺のもあんの……?」

そんな素朴な疑問をぶつけた。

コクンコクン。
そんな俺の問いかけに、向かいに座る美和が大いに頷く。

「食いたい…な?」

俺がそういうと、勢いよく立ち上がる美和。

ビビった……


それから美和はキッチンに行き、何やら冷蔵庫をあさくっている。

そして、ペタペタとスリッパを鳴らしながら美和が持って来たのは……


「バニラ……?」


真っ白なアイスクリーム。

コクンコクン。
俺に対して頷く美和。


「んで……?」
「……?」

「なんで、俺がバニラ好きなこと知ってんの…?」


俺、バニラ好きなんて言ったっけ?


不思議に思いながら、美和の応えを待った。





すると美和が手話で長野になにかを伝え始めた。


「へ~…」

と、ニヤニヤしながら微妙な相槌をいれる長野。

どんな理由なんだろうか。


とても気になり、長野の言葉を待った。


「坂井くん……」


「…はい」
なぜか緊張して声が上擦ったうえに敬語になる俺。


ゴクン。
唾を飲み込む。


「…“なんとなく”だって」

ぷぷぷ。
とでも言わんばかりにニヤケる長野。

……“なんとなく”?


なんか、負けた。


やっぱり、美和には適わねえや。


「さんきゅーな?」
俺が美和に言うと、少しだけ頬を赤くした美和がコクン。と頷いた。


そんな仕草にも、
美和の1つ1つの仕草にもドキリとした。

「ちゃっちゃと食べなきゃとけるわよ」

と長野に促され、俺はハッとなりながらもスプーンを手に取り、アイスクリームを口にした。







「うめぇ…」

何コレ。
普通に美味いんですけど。

ただのバニラアイスとは思えない。


確かに、直人の家の別荘なんだから高級な食材とかは揃ってるだろうけど………

やっぱ、美和なんだよな。

「さ、食べ終わったらバーベキューの準備をするからね」

突然仕切り出す長野。


「「はーい」」

長野の言葉に直人とハモる。


バーベキューか。
久しぶりだなぁ……

前も直人の別荘でやったんだよな。


「陸翔、俺頑張ろうと思う」
小声で直人が俺に言った。


長野に思い、伝えんのかな…??

「…直なら大丈夫。頑張って」

あえて“直”って言った。
“直”は俺が小学生のころに呼んでいた直人のこと。

「…ありがとな、陸」

柔らかく笑う直人もまた、俺を“陸”と呼んだ。


幼なじみの……
親友の、証。








それから夕方になり、浜辺へ出向いてバーベキューをすることに。

……なったんだけど。


長野の思いつきから水着ですることに。

別荘が海の近くにあるからって一応持って来てたけどさ………


「ふぅ」

着替えながらため息をつくと、
「なに、緊張してるの?」

俺の顔を覗き込む直人。


「…当たり前。直人もだろ」
俺がそう言うと、直人は困ったように笑いながら、

「……バレたか」
と言った。


やっぱり、考えることは同じだな。

「パーカー着ていくだろ?」
直人に尋ねると、“ああ”と頷かれた。


俺は黒の海パンに白のパーカー。
直人は紺の海パンにグレーのパーカー。


なんともシンプルだが、シンプルが一番だ。


そんなこんなで、2人して部屋を出て海辺に出た。






海辺に出たあと、バーベキューをする場所、別荘の前まで直人と2人で荷物片手に歩いた。


「やべ……//」


突然、隣で直人が手で顔を隠す。

その視線の先には長野。


ピンク色のビキニを着ていて、髪はゆるふわに巻いて高い位置で1つ結び。


直人、ドキッと来たワケか。

直人ってば可愛いヤツだなぁ。
そんな風に思いながらも別荘の前まで急いだ。


別荘に近づいた時、別荘の中から人影が出てきた。

「……//」


美和だ。

めちゃくちゃ、可愛い。
っていうか、綺麗。

白地に水色の水玉がある水着。
肩紐がなく、首もとで結んである。
下はふわふわしたスカートのような水着で、なんとも美和らしかった。


ちょっと、ヤバいんだけど。

俺も直人も今からドキドキ。
まだまだ近寄ってもいないのに、緊張してしまってる。


大丈夫か、俺ら。






美和side


「あ!男子来たよ~。おそーいっ」
野菜片手に叫ぶ雫。


「ごめんね~」
あわてて走り寄る水野くん。

それに続いて“悪い悪い”と走って来る陸翔。


うわ、カッコいい………


パーカー似合いすぎじゃない?
いや、水野くんもだけどさ………


本当にモデルさんみたい。
水着にパーカーを羽織ってるだけなのにさまになるって言うか、絵になるって言うか………


水野くんと2人並んでると雑誌の1ページのようで。


私も雫も見とれてしまった。


「さ、準備しようか?」

水野くんの一言に、全員が動き出す。


バーベキュー、楽しみだけど……



緊張しすぎて大丈夫かなぁ……!!?








午後6時。

「「「かんぱーいっ」」」

3人の賑やかな声と、4つのグラスがぶつかる音が辺りに響く。


「ん~!おいひーっ」

笑顔で串焼きになったお肉を頬張る雫。

それにつられて私の頬も緩む。
本当に美味しい。

さすが水野くんって言うか……
うん、尊敬です。


私も一口、また一口とお肉や野菜を頬張る。


「んまいなぁ~」

陸翔も笑顔満開。
笑ってる陸翔見ると、私も嬉しくなっちゃうなぁ。



それからジュースを飲んだりして、バーベキューを楽しんだ。












「長野、ちょっといいかな……?」



水野くんが雫の手をとったのは午後7時。
辺りも暗くなり始め、夕日がきれいに水面に映っている。


「え…?//」

突然のことに焦る雫。
………もしかして、もしかする?



「ぅん……//」
戸惑いながらも頷く雫。


そうだったら、いいな。

予感、あたるといいな………



どんどん遠くなる雫と水野くんの背中。

そんな2人の背中を見つめながら、ひたすらに雫のことを願った。


すると陸翔が、
「…アイツ、長野に告るよ…」

2人を見つめながら話す陸翔。


やっぱり告白、だったんだ。
嬉しいな。


雫、両思いだったんだね。

自分のことのように嬉しかった。






雫side



ドキドキする。

直人の掴む右手が、頭が、胸が。

少し前を歩きながら私の手を引く直人。


その背中を見るだけで、ちょこっと寝癖のついた可愛い髪の毛を見るだけで、直人の姿をみるだけで……


こんなにも胸がいっぱいで、張り裂けそうで。


気持ちが、溢れ出してしまいそう。




鳴り止まない鼓動。

直人にこの音が聞こえてないか不安になった。




“ちょっといいかな…?”



直人の少し掠れたハスキーな声が頭の中でリピートされる。


何か、話があるのかな……?

何だろう……


ちょっとって、何…!?
テンパって頭の中がゴチャゴチャ。


だ、誰か助けてぇ~!!

一人焦っていると、直人が話し出した。


「俺……俺、さぁ…」


夕日に縁取られた直人がきれいで、あまりにきれいでちょっとだけウルっと来た。


「……?」




直人の言葉を待った。