「さ、美和。ご飯作るわよ」
そう言って私の手を引き階段を降りる雫。
チラッと壁にかかっていた時計を見ると、確かにもうすぐお昼。
なに、作ろっかなぁ♪
私、こう見えて料理が大好き。
しかも、水野くんの別荘のキッチンはとても広くて綺麗。
料理が楽しそう…!!
ルンルンで向かったキッチンは、やっぱり綺麗で。
“何、つくる?”
手話で雫に尋ねると、
「うーん…。…何が作れそう?」
冷蔵庫を開けながら材料を確認する雫。
“……スパゲティにしようか。”
私が提案すると、
「いいね♪トマトとクリームソースとミートソース……何味にしようか…」
悩んでいると、
「「トマトソース!!」」
陸翔と水野くんが同時に叫ぶ。
オープンキッチンだから、2人が乗り出して来たことに驚いた。
トマトソースか………いいね♪
トマトは夏のお野菜だしね。
それから雫と2人でスパゲティの準備を始めた。
陸翔side
今、キッチンで美和と長野がスパゲティを作っている。
オープンキッチンだから、2人が丸見えなわけで……
せかせかと働く美和と長野。
料理、出来るんだ……
と、一人関心していると……
「…お前、見つめすぎだから。」
あきれたように俺をみる直人。
俺、そんなに見つめてた……!?
む、無意識だ………!!!
一人焦っていると、直人も長野を見つめてる。
「お前もな」
俺がそう言うと、直人はハッとする。
ははは。
所詮、直人も直人だな(笑)
そんな風なやりとりをしながら、料理が出来上がるのを待った。
「出来たよ~」
そう言って両手に皿を持つ美和と長野。
部屋にはうまそうな匂いが漂っていて、お腹がどんどん空いてくる。
「お、うまそ~~」
目がキラキラて輝く直人。
確かに、かなりうまそう。
「召し上がれ~」
フォークを手渡しながら言う長野。
長野はどうしてこの別荘のかってを知ってるんだろう……
ちょっと不思議に思ったけど、気にしないことにしよう。うん。
「「「いただきまーすっ」」」
3人は声を揃えて、美和は口パクで言ったあと、一斉に食べ出した。
「ん~!!んまい」
笑顔満開の直人に顔が綻ぶ長野。
そんな2人をみつつもスパゲティを口に運ぶ。
「…うま…っ」
これ、マジで高2が作った料理!?
美味すぎる。
スパゲティを食べる手が止まらない。
そんな俺を見て、ニコニコする美和。
……嬉しいの、かな?
それからものの数分で全員が間食し、後片付けは俺たち男子がすることに。
美和と長野はと言うと、長い間車に乗ってて疲れたのか部屋に戻ったみたいだ。
「なぁ、」
食器を洗いながら話しかける俺。
「ん…?」
食器を拭きながら答える直人。
「…長野に気持ち、伝えんだろ?」
俺がそう言うと、真っ赤な顔になる直人。
うお、珍しい。
「……出来れば、な。」
ちょっと弱気な直人。
「…やっぱりバーベキューのあととか?」
「…まぁ、一緒に散歩に行きたいかなって…///」
俯きながら答える直人。
初々しいなぁ。
「散歩かぁ。夜の海辺ってなんかいいよな。」
そう言うと、
「陸翔は…?」
“陸翔は…?”………?
俺は、フられたんだぞ…?
なのに、もう一回なんて無理だ。
「俺は……ま、いいじゃん。俺も疲れたからちょっと昼寝でもするわ」
そう言って直人に手をヒラヒラ振ると、
「……おぅ」
力無い返事が返って来た。
……直人も、悩んでんだよな。
パタン。
部屋の扉を閉め、ベッドへダイブする。
「ふぅー……」
部屋の天井を仰ぎながら、左腕を額に当てる。
「今更、なんて言えばいいんだよ……」
ポツリと呟いた言葉がシンとした室内に響く。
美和にはもう、伝えたんだよ……
自分の気持ちも、思いも全て。
「……っ……」
俺は無性に悔しくて、情けなくて、唇をかみしめた。
負けんな、俺。
、
気がつくと、額や背中にじんわりと汗をかいていた。
寝てた、のか……?
「今何時だよ……」
カチカチと音のする方をみると時計があり、その針は3時を指していた。
それから汗を拭い、部屋を出て一階へと向かった。
一階は何やら盛り上がっている。
「いやいや、すげーよ」
「えへへ♪」
何の話…??
「…まぶしっ」
真っ暗だった部屋、階段を降りるとめちゃくちゃ明るいリビング。
「…あ、陸翔起きてきた」
直人の一言に美和と長野もコチラをみる。
「……何盛り上がってたの?」
俺が明るさに馴れない目をこすりながら尋ねる。
「ん…?あぁ、コレのことかな?」
「何々、やっぱり坂井くんも欲しい?」
そう言う直人と長野が指差す先には、
「…アイス…?」
そう、長野の前には茶色のチョコレートと思われるアイスクリームが。
直人の前には緑色の抹茶と思われるアイスクリームが。
そして、美和の前にはピンク色のいちごと思われるアイスクリームが置いてあり、食べかけのようだ。
3人が腰かけているテーブルに座りながら、
「俺のもあんの……?」
そんな素朴な疑問をぶつけた。
コクンコクン。
そんな俺の問いかけに、向かいに座る美和が大いに頷く。
「食いたい…な?」
俺がそういうと、勢いよく立ち上がる美和。
ビビった……
それから美和はキッチンに行き、何やら冷蔵庫をあさくっている。
そして、ペタペタとスリッパを鳴らしながら美和が持って来たのは……
「バニラ……?」
真っ白なアイスクリーム。
コクンコクン。
俺に対して頷く美和。
「んで……?」
「……?」
「なんで、俺がバニラ好きなこと知ってんの…?」
俺、バニラ好きなんて言ったっけ?
不思議に思いながら、美和の応えを待った。
すると美和が手話で長野になにかを伝え始めた。
「へ~…」
と、ニヤニヤしながら微妙な相槌をいれる長野。
どんな理由なんだろうか。
とても気になり、長野の言葉を待った。
「坂井くん……」
「…はい」
なぜか緊張して声が上擦ったうえに敬語になる俺。
ゴクン。
唾を飲み込む。
「…“なんとなく”だって」
ぷぷぷ。
とでも言わんばかりにニヤケる長野。
……“なんとなく”?
なんか、負けた。
やっぱり、美和には適わねえや。
「さんきゅーな?」
俺が美和に言うと、少しだけ頬を赤くした美和がコクン。と頷いた。
そんな仕草にも、
美和の1つ1つの仕草にもドキリとした。
「ちゃっちゃと食べなきゃとけるわよ」
と長野に促され、俺はハッとなりながらもスプーンを手に取り、アイスクリームを口にした。
「うめぇ…」
何コレ。
普通に美味いんですけど。
ただのバニラアイスとは思えない。
確かに、直人の家の別荘なんだから高級な食材とかは揃ってるだろうけど………
やっぱ、美和なんだよな。
「さ、食べ終わったらバーベキューの準備をするからね」
突然仕切り出す長野。
「「はーい」」
長野の言葉に直人とハモる。
バーベキューか。
久しぶりだなぁ……
前も直人の別荘でやったんだよな。
「陸翔、俺頑張ろうと思う」
小声で直人が俺に言った。
長野に思い、伝えんのかな…??
「…直なら大丈夫。頑張って」
あえて“直”って言った。
“直”は俺が小学生のころに呼んでいた直人のこと。
「…ありがとな、陸」
柔らかく笑う直人もまた、俺を“陸”と呼んだ。
幼なじみの……
親友の、証。