だけど、作り笑いの似合わない彼を見るくらいなら、嫌な役は私が買って出よう――。
「でも、俺は……」
なのに、弱々しい彼の声が私の感情を逆撫でする。
“でも”なんて言葉、まわりの人間には使わないくせに、平気で自分には使うところが嫌いだ。
私は手の平に爪痕がつくくらいに拳を強く握り、ついに苛立ちをぶつけた。
「でも、何?私と違って自由な手があるじゃない。前に進める足だってあるじゃない――」
葉が揺れる音など遠退いて、私の声だけがこの木の下に溢れていく。
もう彼のために言ってるんじゃないんだ。
ただの私の我儘――。