「青谷 春輝…?誰それ、俺聞いた事無ぇけど?」
「当たり前だ。ハルは……あー、いや、その、春輝は〜…」
何それ。
今さっきハルって言ってた?
春輝なのに普段はハル呼びですか。
「良いよ、無理して春輝って言わなくても。“いつも”みたいに言えば?」
「はぁ?何怒ってんだぁ…晴と春じゃややこしくなるから春輝って言い換えただけでーーー」
「あっそ。じゃあ俺の事“朝霧”って呼べば良いじゃん。」
何だよ、そんなにハル呼びにこだわってんのかよ。
何だよこの気持ち…ムカムカする。
近くにあったクッションを抱きしめて、そこに顔をうずめる。
そんな俺の様子を見て小さくため息をついてから、少しだるそうに話を進め始めた蓮。
「とにかく、だ。春輝は明日から入ってくる転校生だ。あいつには何があっても近付かないこと、良いな?」
「…」
そんなにそっちのハルに俺を近付けたく無いんですか。
そいつの事がよっぽど大事…なのか?
目に溜まって来た涙を隠すように、俯いたまま「わかったから早く帰れよ」とだけ呟いて蓮が帰るのを待つ。
「なぁ、晴…」と言ったが、一向に顔を上げる気配の無い俺の様子を見ると、そのまま何も言わずに立ち去って行った。
ゆっくりと顔を上げて時計を見ると、時刻は深夜1時過ぎを指していた。
「明日、か…」
明日と言うより、あと7時間もすれば出会う新しい存在に、既に何とも言えない劣等感に襲われていた。