龍也との約束をして分かれた後、トイレに行った俺。

授業が始まる前って事もあってあまり人気は無い。

ーーーとこに、1人。

『…ん?何か見覚えがある…』

「あ!」

わかったと同時に声が出てしまった。
その声に反応したその人はーー…

「楓!」
「晴?!」

姿を捉えるなりクールな容姿からは想像出来ないくらいの焦りようで俺に走り寄って来る。

「晴…お前、記憶…」

途切れ途切れに伝えて来た言葉は、動揺を隠しきれないって感じだ。

「俺の記憶が無いのは…蓮さんの事だけだ。」

そう言って「ははっ」と苦し紛れに笑って楓を見上げると、抱きしめられた。

「わっ、ちょっ、楓?!トイレでこんな!抱きしめっーーー!!」

「…かった…」

「へ?」

「良かった…」
その言葉と同時にさらに強さを増して抱きしめられる。

「え、と…何が?」

「俺の事まで忘れてなくて…。」

「え…?」

「俺の事まで忘れられたら…俺…勝ち目無くなるだろ…」

「勝ち目?」

何の勝ち目だ、おい?