「おーい、聞いてるか?」
呆然としている私の目の前で奴が右の掌をひらひらさせる。
「聞いてるから」
ハッと正気にかえった私は努めて冷静に答える。
「で、どうする?」
と、奴が私の制服の左袖を掴み尋ねてきた。
……いや、どうするもなにも送る気満々だろコイツ。
というかコイツ、どうして私を送ろうなんて思ったんだろう。
まあいい、今日は奴の好意にあまえよう。
「……送って」
私はそう答えると、鞄の口を締め、それを右肩に掛ける。
そして靴を履き立ち上がった。
奴はなぜかその間ずっと、私の袖を掴んだまま離さなかった。