「あの、伯父さまと叔母さまたちは?ご挨拶がしたいんですけど...」

「生憎夕食の時間までお二人はお仕事でお帰りになりません。セイ様は大体診療所におりますので緊急の患者がいない限りは夜深くになるまでお帰りになるかと。」

「診療所?お医者さんなんですか?」

「えぇ、本国のA都医科大学に進学されて、医者を志しておられたした。ご主人様には、家業を次ぐ気はなく猛反対されておられましたが、卒業後すぐに171地区に戻られ、診療所を開かれました。ここは昔から医者不足で、結果的に我々にはとてもありがたいこととなってのです、患者は年寄りばかりですが、それはもう親切に処置なされるし、腕は確かだ。島ではなくてはならない存在の方になりました。最近になってようやくご主人様もセイ様を認められた様子で。」

クルミは自分のことのように誇らしげにリリィに語った。
A都医科大学は本国で難関トップクラスの医大だ。リリィも名前くらいは知っていた。

「そうなんですね...セイさんは、この写真の男の子ですよね?」

「ほぉ、懐かしいものを持っておられる...いかにもセイさまです。因に、この写真は私が撮影させていただいたものかと。今も持ってくださっているとは、嬉しいですねぇ。」

「いえ、おじいちゃんが持っていたんです。亡くなった時に手紙を私に遺してくれて、その中に。私も初めて見る写真なんです。」

「ほぅ...なるほど。あのルーク様が...しかし私たちとあなたはこの写真をとってからの再会になります。13年ぶりに会うんですな、ルーク氏に会えぬのは無念でありますが、本当に感慨深い。」

「やっぱりそう...ねんですね。ごめんなさい。私、この頃の記憶が全く無くて、みんなのこと覚えてないんです。」

「そうですかやはり...今も記憶は戻らぬままなんですか。あなたのお父様とお母様が大変な事が起こった日でありますからね、仕方ありません。」

「あの...私お父さんとお母さんの思い出も全部無くなっちゃったんです、どんな人だったかも...聞かせてもらえませんか?」

「えぇもちろん。時間はこれからたっぷりございます。私からもお話できますが、ご主人様やセイ様とお話されるのが一番でしょう、さぁ、夕食までゆっくりお休みになってください。」

「あ、はい...ありがとう、クルミさん」

クルミはにっこりと微笑み、部屋を出た。