幻灯師のサダクローが死んだ。

という噂がロマリアの街に広がっていた。
俺はしばらくのあいだ団長の家に身を隠していた。

俺がサーカスを辞めるかわりに最後に一儲けさせろというのだ。
それにはサダクローに死んでもらうのが一番だった。
俺の報酬は一切なし。

それでも死んだことにしてもらえば、
もう二度と見世物の世界から声がかかることもない。
そのほうが好都合だ。

団長はサダクローの最後の公演を行うことを公表した。
すると隣国からも大勢の観衆がつめかけた。

俺は舞台上には上がらず、変装して顔をかくし、
舞台袖に隠れていた。

団長は喪服を着て観衆の前に出た。

「みなさん。本日はお集まりいただいてありがとう。
みなも知ってのとおり、サダクローは死んだのだ。
聖ミカエル山から帰るとき、海にのまれてしまった。

サダクローは皆様に愛されました。
その最後のお別れができずに、
彼の魂はおそらく神の元へ召されずにまださまよっているはずです。

そこで本日は、サダクローが皆様に最後のお別れをするために
エクソシストを呼んでおります。」

団長が、この日のために特別に雇った霊媒が舞台に立った。
この霊媒は当然いかさまでもうけている輩だった。

霊媒は舞台上で、何か儀式めいたことをやってみせた。
そして俺に合図を送った。

俺は幻灯を描いてみせた。

最後だったので今までやってきたこと全部と、
あと最後の最後にひとつ付け加えた。

それはqが死ぬ少し前に見たといった夢の光景だった。
qが実際にどんなものを見たのかはわからないが、
聴いた話からしてそれは曼荼羅だった。

まず蓮の花を描いた。
その中心部にクローズアップし、素粒子をみせた。
素粒子は光り、素粒子でこの世界が満たされていく。
それからこの天体を外から見せた。さらにその外から、
銀河をみせた。
銀河がたくさん集まって無限のように集まって、
それがあたかも素粒子の集合体のように世界が成り立っている様を描いた。

これで終わりだ。

幻灯師のサダクローとはさよならだ。