夜、消灯時間になって、みなが床に着いた時、
俺は下に寝ているトラビスに話しかけた。

「ナザレのイエスは、結局、苦しんで死んだ一人の人間だったと思うぜ。」

しばらく間があいてから、下から声が聞こえた。

「僕に言ってるのか?」

「そうだ。」

「もう、あんたに聖書の講釈をすることはできない。」

「ただの感想だよ。俺の。」

俺は今、トラビスがどんな顔をしているのか、確認したくて、
ベッドから降りた。
トラビスの床をのぞきこんだが暗くて表情まではわからない。

「なんだよ。」

俺はトラビスの顔をつかんだ。

「今朝のあんたは、この修道院の中で誰よりも潔かった。
俺は、今のあんたのほうが好きだ。」

トラビスは何も言わない。
俺は指の腹でトラビスの顔をなぞった。
どんな顔をしているのか知ろうとした。

「不思議だな。」

トラビスが口を開いた。

「あんたに触れられていると、気持ちが落ち着いてくる。」

思いがけないことを言われた。

「そうか?」

「あんたはもう回復魔法の使い手だ。」

「魔法?」

「今度、試してみるといいよ。」

上のほうからうなりごえがした。

「うるさいなあ。」

神経質男が言った。

俺はトラビスの胸を軽くたたいて、ふたたび床にもどった。

「おやすみ。」

「おやすみ。」