ミサが終わり、聖堂を出ると、せむしが興奮して話しかけてきた。

「おい、きいたかい?トラビス助祭が娼館に行ってたって?!」

「静かにしろよ。」

俺がすたすた歩いていってもせむしは俺にぶらさがってくる。

「信じられないよな!あの高潔で信仰深いトラビス助祭が!」

うらやましいのか軽蔑してるのか、ひどくまくしたてる。
部屋に入ったとき、そのせむしが、いそいで口をつぐんだ。

俺のベッドの下段にトラビスが座っていた。

「ここ、空いてたよな?」

「おう。」

俺の下に寝ていたどろぼうじいは、
歳をとりすぎて少し前に養老院に送られていた。

俺は何も言えなかった。
せむしは驚きと気まずさで落ち着きを失っていた。


その日、トラビスは俺たちと共に大聖堂の土台の修復作業にあたった。
現場監督のヨセフがトラビスに左官を教えていた。

なんとなく、全体の雰囲気が気まずく、誰もトラビスに話しかけなかった。

俺は働くトラビスの後姿を見た。
そのとき、今まで高潔だったが、なんとなくつかみどころがなく、
実体の無かったトラビスが、実体を持ったように見えた。