「姦淫することなかれ、とありますが、
これを守ったら人類は滅亡するんじゃないですか?」

「それは。。。いろいろ議論はありますが、
婚礼によって結ばれた男女間については認められています。
もしくは、反社会的関係においてでなければ。」

「ふーん。そういうことなんですか。
助祭どのは、」

「あ、トラビスでいいですよ。」

「トラビス、あなたはいつからここにいるんです?」

「私は12歳のとき、自分の意思でここに来ることを決めました。」

「自分の意思で、ですか。
ここに来ていろんな奴らと話してみましたが、みんな成り行きとか、
転がり込む、みたいな感じで今ここに落ち着いてるって奴が
多いんですよね。私も半ばそんなところで。」

「ここに来ている人々はみな、神のご意思で来ているんです。
自分の意思であろうと、なかろうと。」

「あなたはなぜ、ここに来ることを決めたんですか?
たった12歳で。」

「私の家族は敬虔な信者でした。
神に仕える人生を送りたいというのは自然なあこがれでした。」

「そうだったんですね。では、順風満帆ですね。」

「順風満帆・・・」

トラビスはそう繰り返した。
それまで柔和な微笑みで話していたが、急に目の色が暗くなった。

「いいえ。神は過酷な試練をいつでもお与えになる。
でも、みなさんおっしゃいます、神はその人に背負いきれる十字架しか与えないと。」

「神は乗り越えられる試練しか与えない、と、そういうことですか?」

「はい。そうだと、思います。」

トラビスの声は、俺にでなく、自分の内面に向かっていた。