「そういえば、明日は、また合唱があるな。」

博士がぎくりとした。

「あの、チカラって先生は熱血漢だな。」

「あの人の話はしたくないね。」

少し動揺しているようだ。

「なんで?きらいなのか?」

「きらいに決まってるだろう。恥をかかせやがって。」

「たしかに、ちょっと無神経かもな。
あんたはあがり症?」

「僕は人前に出るのが大っきらいなんだ。
あんたは道化師やってたんだから平気だろうけど。」

「そんなことない。道化師だってな、緊張するんだぞ。」

「だって、のっけからパート決めやらされてたけど、
平気でやってたじゃないか。」

「あの状況じゃ、そうするしかないだろう。
それにやったことないんだから、へたくそで当たり前、
恥ずかしくもないね。

そうだ。
歌の練習しないか?」

「ええ!やだよ!」

「練習しとけば、もうみんなの前で一人で歌わされなくてすむぞ。」

博士ははっとした。

「そうか、なるほど。」




俺と博士でチカラ先生を探した。
チカラは書庫で古い楽譜の整理をしていた。

「チカラ先生、明日の予習をお願いします。」

俺が言った。
博士は俺の陰に隠れている。

「おお、ミゲーレ君。それに、博士くんじゃないか!」

「チカラ先生、博士はみんなの前で一人で歌うのは恥ずかしいそうですよ。」

博士は俺をにらみつけた。
チカラは博士の背をたたいて言った。

「恥ずかしいだってえ?どうしてだい?」

あれだけ俺に対しては饒舌な博士が、
このチカラの前ではただのもじもじした子供になってしまう。
何も応えられない。

「みんなの前で歌うって、サイコーに素晴らしいことじゃないか!
みんなの共有してる時間を自分のためにいただけるんだぞ、
そんなに貴重なことって、他に無いと思わないかい?」

なるほど、この人はそんな風に考えているのか。

それから発声練習とそれぞれのパートの音取りをやってもらった。