チカラが前奏をひき始めるとニコルはオルガンの音に集中した。

ゆったりとした呼吸と共に澄んだのびやかな声が響いた。
よく通るが、決してうるさくはない。
海に吹き渡る風を想わせた。

ニコルの歌声に惹きつけられていた。
神経に直接作用してくるような心地よさを感じた。

ただただ聴き入っているうちに、曲は終わった。

修道士たちの間から自然と拍手が起こった。
俺も賞賛の拍手を送っていた。

ニコルが一礼した。
その顔には喜びがあった。

こいつは悪い奴ではないな。
そう思えた。

ひときわ力強い拍手をしていたチカラがニコルの肩をたたいた。

「素晴らしかったよ!ありがとう。
ミゲーレ君、こんな感じだよ。」

こんな感じといわれても、ずいぶん高いハードルだ。

ニコルが集団の後ろに戻っていくとき、俺とすれちがった。
その時いつものいけ好かない野郎にもどっていた。
俺を見て少し目を見開き、にっと笑って見せた。

ああ、わかったよ。あんたが完璧な奴だってことは。