週に何度か、合唱の練習があった。

合唱は、すべての修道士が加わった。
さまざまの年齢の修道士たちが聖堂に集まった。

合唱の指揮をとるのはチカラ。
岩のようなごつごつした顔をしていて、
その両の目には音楽に対する情熱がみなぎっていた。

「諸君!今日はあたらしく我々の聖歌隊に、
ミゲーレ君が加わってくれた!拍手で迎えよう!」

チカラが俺を集団の中から招き寄せた。

命名式の時に紹介はしてもらっていたので、今更、という
気恥ずかしさがあった。

「歌を歌ったこと、あるだろう?」

「いえ、ほとんどないです。」

「子供の頃、みんなで歌ったことないのかい?」

「私の出身地では、あまりそういう習慣がないのです。」

「そうか!では君は、ここで初めて、
素晴らしい経験をすることになるだろう!みんな、拍手!」

ぱらぱらとまばらな拍手が起こった。
どうも、このチカラの情熱にみんなついていけないらしい。

「まずは、パート決めをしなくちゃな。声を聴かせてもらおうか」

チカラがオルガンの鍵盤をたたき、それと同じ音階の声を出していった。

「まてまて、そんな声の出し方じゃあ、喉がかわいそうだ。
もっと喉の奥をひらいて、頭のてっぺんから声を出してえ!」

読経とは、全く発声法が違うらしい。
ぜんぜん声が出ない。

「腹から、腹からあっ、」

チカラが励ましても俺の声は割れる。

「うん。まだ出せる音域は狭いけど、
発声練習でどんどん音域は広がっていく。
テノールで、やっていってみよう。」

奇妙な、発声練習なるものの後、
合唱曲がはじまった。
楽譜を渡されたが、読み方も何もわからない。

俺の隣の男が親切に楽譜を指でなぞり、
今どこを歌っているのか示してくれた。
でもはじめて聴く曲だし、歌うどころじゃなかった。

「ニコル君!」

チカラが呼んだ。奴は後方から人をかき分けて前へ出た。

「ミゲーレ君のために、テノールのパートを独唱してくれないか?」

またこいつかよ。

「いいですよ。」

ニコルがちらと俺を見た。
いつものようないじわるな笑いはない。