無名も一人で乗馬していた。
見えなくても、
何の不自由もないようだった。

俺は一騎の騎馬に
乗せられた。

馬の首と、騎兵の間に座り、
騎兵は俺を抱えるように
手綱をさばく。

その騎兵は、
まだほんの少年のようだった。

だがもう
一人前の騎馬兵だった。

一騎の騎馬がゆっくりと
大将に歩み寄り、
騎兵は馬から降りた。

「泥濘さま。
現金の収奪が完了しました。

大型の貴重品は
船のあるうちに
運び出しています。

全ての収奪が完了しました。」

「了解した。」

騎上から泥濘が答えた。

泥濘は、
俺の乗っている騎馬に
歩みを進めた。

その様は、
本当に馬が
泥濘の一部になっていた。

馬の四つの足が、
泥濘の足となって歩んでいる。

そして俺の真横につけた。

「この戦の
一番の戦利品は、

おまえだよ。」

一番最初に見たときのように、
泥濘は、半分まぶたを閉じ、
俺を見ている。

口元は微笑んでいた。


「出せ。」

泥濘が先頭部隊に
向かって言った。

それほど大きくはないが、
よく通る突き刺さるような
声だった。



騎馬の群れは
泥を跳ね上げながら
疾走する。

俺は上下する馬の背から
ずり落ちそうになる。

後ろの少年騎兵は
俺を腿で支え、
片手で俺の腹を
抱えながら
手綱をとった。




できれば、
涙を流したい。


だが、
涙は出なかった。