又三郎はずっと泣いていた。

時に声をあげ、
時に静かに涙が流れ落ち。

又三郎は
俺の肩に顔をつけた。
涙がこぼれる。

「どうして?
どうしてこんなことに?」

俺の肩は
又三郎の涙でぬれた。


こんなふうに、
俺も泣けたらいい。


「雷寧(らいねい)さま、
お怪我はありませんか?」

兵士に
こう呼ばれているのは無名だ。

「大丈夫だよ。ありがとう。
私は彼らの面倒を
みてるから。」

俺と又三郎は縛られたまま
テラスの脇に座らされていた。

無名は腰を落とし、
又三郎にささやいた。

「おまえの隠れ家は、
私の軍勢にも言ってないよ。
本当だよ。」

それまで
泣いていただけだった
又三郎は無名に
食ってかかった。

「馬鹿野郎!!
なんで
こんなことになったんだ!」

ああ。言わないでくれ。
無名。
俺が又三郎を守るために
ほかの者を犠牲にしたことは。

盲の無名に向かって、
懸命に視線を送る。

それを知って知らずか、
無名は黙っていた。


その時、先ほど聖堂にいた
大将らしき男がやってきた。

まっすぐに
無名に向かって歩いてくる。

すると無名も立ち上がった。

二人は何も言わず、
お互いの頭をつかみ、
頬と頬、
こめかみとこめかみを
ぴったりと寄せた。

しばらくの間そうしていた。

とても不思議な光景だった。

無名と大将はそうしながら、

「へえ。」

とか

「なるほど。」

とか、言い合い、
ときには笑いさえした。

二人が離れ離れに
なっている間の出来事が、
お互いの間で、
言葉のない会話で
通じているようだった。

大将の目に見えたものが
盲の無名に見え、
無名の感じた音が、
大将に感じられている
ようだった。


「お話中、失礼します。」

兵士が二人に声をかけた。
この連中の間では、
これはごく日常の風景らしい。

「泥濘(でいねい)さま、
奥にいた者も、
全員死亡を確認しました。」

「よし。
では物品の収奪に移れ。」

大将は指示を出した。

修道院にある貴重品は
略奪されるんだ。

しかし、この兵士たちの、
なんと軽装なこと。

防具は着けていても、
せいぜい革の帽子と
胸当てくらいのもの。

あとは東方風の
上着とズボン、
革の長靴をつけていた。

全員矢筒と弓を
装備していた。

弓はとても小さかった。

彼らのほとんどは東洋人か、
東洋人の混血だった。