テラスに出た。

又三郎が
俺にしがみついた。

聖堂の改修現場には
無数の修道士たちが
転がっていた。

遠目にも、
もうそれには
命が宿っていない
ことがわかる。

又三郎は息を呑んだ。

「なにが起こったの?」

俺は聖堂に向かって
歩いていく。

きれいに
出来上がったばかりの
扉は無残に打ち破られていた。

聖堂の中は
黒いローブの修道士たちの骸で
いっぱいだった。

骸にはたくさんの
矢が刺さっていた。

長々と切り付けられ、
赤い肉がむきだしに
なったものもある。

顔面が割られ誰だか
判別できないものもある。

はらわたが体から
はみ出たものもある。

そんな骸がたくさん
折り重なっていた。

大聖堂正面から
襲撃を受け、
多くの者がここへ
駆けつけてきたのだろう。

又三郎は震え、
ずっと小さな声をあげている。

と、突然、又三郎は
何かを見つけ駆け出した。

「親方!!」

又三郎の声は割れていた。

厨房の親方には
たくさんの矢が刺さっていた。

「親方!!親方!!」

又三郎は割れた声で
何度も叫びながら、
親方の体をゆすった。

その骸は脂肪の塊だった。
ゆすられるたびに
その脂肪は
でろり、でろりと地面に広がる。

又三郎が慟哭している。

祭壇近く、俺の足元に
見慣れた道具袋を
身に着けた骸がある。

骸は数箇所、
矢で攻撃されていた。

そして体躯に
致命的な切り傷を
何箇所も負っていた。

片腕はずたずたに裂かれ、
腱の一筋でかろうじて
ぶら下がっていた。

頭頂部が割られていた。

両の眼は見開かれていた。

俺はその骸の傍らに
膝をついた。

「俺、おまえのこと
きらいだったよ。」

俺は骸の眼を
親指と人差し指で
閉じてやった。

「最後の最期まで、
糞真面目に戦いやがって、
ニコル。」

ニコルの額には
不動明王のように
深いしわが
いくつも刻まれていた。

俺はそのしわを
両手で伸ばしていった。

血が、俺の手に付いた。

ニコルの皮膚は
まだ柔らかかった。

苦痛に盛り上がった頬を
なだらかに整えた。

そして
力なく開けられた口を閉じ、
唇の両はしを
ほんの少しだけ上にあげた。

しばし
そのニコルの顔を見つめた。

ニコルは、
考え事をするとき、
よく右手の指を
頬に軽く触れていた。

その姿は弥勒菩薩に似ていた。

ニコルの骸の下には
オーベール師があった。