上で何が起こっているのか、
全くわからない。

ここには何も聞こえてこない。
何も響かない。

又三郎を抱いて、
鼓動を感じて、
体温を感じて、
少し眠くなる。


昨日のことは、
全部うそだ。


長い時間。
とても長い時間。

恒久。

俺たちはずっと
ここにいるんだ。

この壁の中で。

二人の
胎内の中で。




遠くから、
目覚めの音が聞こえてくる。

とてもきれいな旋律。


「なんだろう?」

又三郎が言った。

かなしく美しい
旋律を奏でる
琵琶の音が近づいてくる。

琵琶の音は、
又三郎の家の前で止まった。

又三郎は戸板をどかした。
無名の足元が見えた。

又三郎が這い出す。

俺は奥に座ったまま
動かなかった。

「ミゲーレ、終わったぞ。」

無名の声がした。

「何が終わったの?」

又三郎が
無名に訊ねている。

「又三郎、ミゲーレを
引っ張り出してくれないか?」

「うん。」

又三郎が俺の体を
家から引きずり出した。

「どうしたんだよ。
ミゲーレ。」

又三郎が
心配して俺を見ている。

無名は無表情だった。
何も言わず、上を指した。

無名を先頭にして
階段を昇る。

少年宿舎をまわりこんで
大聖堂へ続く大階段を昇る。