もう、そろそろだ。
又三郎を連れて、
又三郎の家に行くまで
何分かかかる。
又三郎は幸いにも
ちょうど昼の片づけが終わり、
休憩時間のはずだ。
時計を見る。
一時半を少し過ぎた。
あぶら汗が、
首筋からしたたりおちた。
俺は用でも足しに
行くかのように現場を離れた。
恐い。
又三郎は空中回廊にいた。
回廊に囲まれた
中央の芝地に
横になっていた。
その光景。
ちょうどそこには
午後の陽がさしていた。
又三郎は眠っていた。
まわりには
蛇いちごや
俺の知らない野花が
たくさん咲いていた。
海に浮かんだ空中の回廊。
まばゆいばかりの陽光。
野生の花々。
もし、天国なるものが
あるならば、
こここそが
それではないだろうか。
そこで眠る又三郎は
天使だ。だがもう、
かわいらしい
キューピッドではない。
もはや
青年になった又三郎は
大天使ミカエルだ。
戦士の守護天使ミカエル
大天使ミカエルが、
空中回廊に翼を休めている。
俺は見とれた。
もう何もかもが、
どうでもよくなる。
生きようが、死のうが、
こうして、
ここで天国を見られたのだ。
又三郎のそばに膝をついた。
又三郎の顔は
陽光に輝いていた。
本人がいやがっていた
ひげになりかけたうぶげも
金色に光っていた。
これまでの又三郎の美しさは、
年齢によるところもあった。
だが、これからは本物の、
美しさになっていくんだ。
又三郎はふと目を覚ました。
「あ、寝ちゃった。」
そして顔を上げ俺を見た。
「ミゲーレ。仕事は?」
「又三郎、行くぞ。」
「え?どこへ?」
俺は人差し指を
自分の口に突き立てた。
「しゃべるなよ。」
俺は又三郎の腕を
引っ張って
又三郎の家に連れて行く。
又三郎は
不審に感じながらも
黙ってついてきた。
狭いにじり口をくぐり、
戸板をしっかりはめた。
懐中時計を見ると、
二時だった。
「一体なんだっていうの?
こんな時間に。」
俺は又三郎の口をふさいだ。
いつもしているように、
後ろから
又三郎の背中を抱いた。
又三郎の口をふさぎ、
もう片方の手で
耳をふさいだ。
そして俺の胸に、
又三郎の反対の耳も
押し付けてふさいだ。
又三郎はわけもわからずに
されるがままになっていた。
やがて、地鳴りがしてきた。
地鳴りが近づいてくる。
無名の言っていた、
二百騎の軍勢が
迫ってきている。
又三郎は
がたがたと震えている。
いや、ちがう。
震えているのは俺だ。
又三郎を連れて、
又三郎の家に行くまで
何分かかかる。
又三郎は幸いにも
ちょうど昼の片づけが終わり、
休憩時間のはずだ。
時計を見る。
一時半を少し過ぎた。
あぶら汗が、
首筋からしたたりおちた。
俺は用でも足しに
行くかのように現場を離れた。
恐い。
又三郎は空中回廊にいた。
回廊に囲まれた
中央の芝地に
横になっていた。
その光景。
ちょうどそこには
午後の陽がさしていた。
又三郎は眠っていた。
まわりには
蛇いちごや
俺の知らない野花が
たくさん咲いていた。
海に浮かんだ空中の回廊。
まばゆいばかりの陽光。
野生の花々。
もし、天国なるものが
あるならば、
こここそが
それではないだろうか。
そこで眠る又三郎は
天使だ。だがもう、
かわいらしい
キューピッドではない。
もはや
青年になった又三郎は
大天使ミカエルだ。
戦士の守護天使ミカエル
大天使ミカエルが、
空中回廊に翼を休めている。
俺は見とれた。
もう何もかもが、
どうでもよくなる。
生きようが、死のうが、
こうして、
ここで天国を見られたのだ。
又三郎のそばに膝をついた。
又三郎の顔は
陽光に輝いていた。
本人がいやがっていた
ひげになりかけたうぶげも
金色に光っていた。
これまでの又三郎の美しさは、
年齢によるところもあった。
だが、これからは本物の、
美しさになっていくんだ。
又三郎はふと目を覚ました。
「あ、寝ちゃった。」
そして顔を上げ俺を見た。
「ミゲーレ。仕事は?」
「又三郎、行くぞ。」
「え?どこへ?」
俺は人差し指を
自分の口に突き立てた。
「しゃべるなよ。」
俺は又三郎の腕を
引っ張って
又三郎の家に連れて行く。
又三郎は
不審に感じながらも
黙ってついてきた。
狭いにじり口をくぐり、
戸板をしっかりはめた。
懐中時計を見ると、
二時だった。
「一体なんだっていうの?
こんな時間に。」
俺は又三郎の口をふさいだ。
いつもしているように、
後ろから
又三郎の背中を抱いた。
又三郎の口をふさぎ、
もう片方の手で
耳をふさいだ。
そして俺の胸に、
又三郎の反対の耳も
押し付けてふさいだ。
又三郎はわけもわからずに
されるがままになっていた。
やがて、地鳴りがしてきた。
地鳴りが近づいてくる。
無名の言っていた、
二百騎の軍勢が
迫ってきている。
又三郎は
がたがたと震えている。
いや、ちがう。
震えているのは俺だ。