朝の現場に
トラビスの姿はなかった。


あれから、
寝室に戻ってくると
トラビスはすぐに
修道院を出て行った。

何も言わなかった。

だけど、俺の忠告どおりに
マリアと朝の船で
出ているはずだ。
きっとそうであって欲しい。


「トラビスはどうした?」

ニコルが探している。

「トラビスは風邪を
引いたとかで
熱があるから
今日は休むってよ。」

俺が言った。

「そうか。」

ニコルは俺の顔を
のぞきこんだ。

「ミゲーレ、貴様、
ひどい顔色だぞ。
貴様こそ
風邪じゃないのか?」

俺はもう、
まともにニコルの顔が
見られない。

「いや、俺は大丈夫だ。」



仕事をしていても、
時間が気になって仕方ない。

懐中時計を取り出す。
まだまだ、朝も早い。

しばらくして、
また時間が気になり、
懐中時計を見る。

一分も経っていない。

そんなことを数回繰り返した。

こんなことではいけない。
いつもどおりにしていなくては。


聖堂前のテラスでは
それとなく無名が
こちらをうかがっている。

昨夜から、
全く時間の流れが遅すぎて、
しかしある時、
急に数時間が過ぎている。


やっと昼食の時間が来た。
皆食堂へ行った。

俺は腹の底から
息を吐き出した。

疲労困憊して
地べたに座り込んだ。

吐き気がした。
胃液がこみ上がってくる。

ああ、ほんの少し、
ほんの少しでいいから
休みたい、横たわりたい。

俺は地面に丸まった。


昼休みが終わる。

「ミゲーレ、飯食ったの?」

せむしが
いつもとおなじように、
声をかけてくる。

「あ、ああ。」

それ以上何も言えない。

せむしは俺の答えに
たいした関心もない様子で、
誰かに呼ばれて
持ち場に行った。



あ、もう少しだ。
もう少しであの時間になる。

また懐中時計に手がいく。

だがまだ昼が
終わったばかりなんだ。

まだ、もう少し時間がある。
俺は懐中時計に
触れただけで見るのをやめた。

だがもう、
ほとんど仕事など手につかず、
ローブの上から懐中時計を
押さえてばかりいた。