「我々のうちのひとりは
将軍なんだ。

我々は、
つまりおまえの言うところの
ふたごの片割れというのと
私は、一つの人格を
共有している。

一つの人格が、
二つの体を持っている。

一つの体は将軍で、
もう一つの体は
吟遊詩人であり、斥候。

離れている二つの体を
一つの人格に
結ぶのがシノープだ。」


こいつは何を
言っているんだろう。

皆目わからない。

とにかく、明日、
修道院は襲撃を受ける。

そしてそのことを
黙っていれば
又三郎だけは助かる。


そういうことなんだ。


俺はベッドに片手をかけ
床にうずくまった。

どうすればいい?

無名が琵琶を
静かに爪弾いている。


何も考えられない。


まず皆にこのことを告げ、
戦闘態勢を整える。

だが攻撃魔法が
使えるのは俺とニコルだけ。

長年のロマリアの太平で、
ミカエル山の戦闘力は
もはや無きに等しい。

修道院は堅牢な城塞だが
無名の諜報活動によって
すっかり敵方に
構造が掌握されてしまった。

ミカエル山が
難攻不落だったのは
干満の激しい
海に囲まれている
天然の要塞だということも
大きな要因だったが、
干満の時間までもが完全に
知られてしまっている。

無名が言うには
敵は大陸の東側半分を
制覇したというではないか。

それが本当なら、
俺たちの側に
勝ち目なんかない。



だけど
俺が黙っていれば、
又三郎だけは
助けてくれると言った。

なぜか、
無名は約束は守る
という確信がある。


又三郎を失いたくないよ。

又三郎だけは
絶対失いたくない。

誰も又三郎に
手をつけさせたくない。



又三郎だけは

絶対

失いたくない。



俺は頭を起こし、
ゆっくりと立ち上がった。

無名が言った。

「明日の午後二時、
おまえと又三郎は、
あの、又三郎の隠れ家に
身をひそめていろ。

全てが終わったら、
私が迎えに行く。」

「わかった。」

そう言うしかなかった。

無名は手探りで
窓を開けた。

シノープが闇夜に
羽ばたいていった。