聖堂の正面の壁は
もうほとんど
出来上がり
仕上げに入っていた。
以前聖堂の
前身部分だったところは
テラスになっていた。
今は大聖堂の前で
広々と海と対岸の大地を
見渡すことができた。
無名が、テラスに佇んでいた。
無名の後姿。
波の音に、風向きに、
非常に集中している
ようだった。
無名が海のほうを向いたまま
右手を空にかかげた。
見ると、
一羽の猛禽類がはばたいてきて、
無名の手首に止まった。
何の鳥だろう?
俺は思わず近づいて行った。
無名は手首にとまった
猛禽類の頭を
包み込むように撫でた。
どうも梟のようだ。
「ミゲーレか?」
無名が言った。
「ああ。ごめん。
声もかけずに近寄って。
梟なんて、
ここじゃ珍しいから。」
「ああ、そうだろうな。」
「あんたが
飼っているのか?」
無名は梟を片手で
包むようにつかみ、
自分のこめかみの辺りに
寄せた。
「飼っている?
シノープは、
我々の一部だよ。」
「シノープ?」
その梟の
名前なのだろう。
無名はこめかみに
シノープをぴったりと
くっつけた。
そして
聞こえない声を聴くように、
見えないものを見るように
顔を上げた。
無名のわずかに
覗く虹のような瞳の色が
一瞬輝いて見えた。
不思議な光景だった。
梟が、この盲人に、
何かを伝えているかの
ようだった。
しばらくの間
そうしていたあと、
無名はシノープを
自分の肩に乗せた。
もうほとんど
出来上がり
仕上げに入っていた。
以前聖堂の
前身部分だったところは
テラスになっていた。
今は大聖堂の前で
広々と海と対岸の大地を
見渡すことができた。
無名が、テラスに佇んでいた。
無名の後姿。
波の音に、風向きに、
非常に集中している
ようだった。
無名が海のほうを向いたまま
右手を空にかかげた。
見ると、
一羽の猛禽類がはばたいてきて、
無名の手首に止まった。
何の鳥だろう?
俺は思わず近づいて行った。
無名は手首にとまった
猛禽類の頭を
包み込むように撫でた。
どうも梟のようだ。
「ミゲーレか?」
無名が言った。
「ああ。ごめん。
声もかけずに近寄って。
梟なんて、
ここじゃ珍しいから。」
「ああ、そうだろうな。」
「あんたが
飼っているのか?」
無名は梟を片手で
包むようにつかみ、
自分のこめかみの辺りに
寄せた。
「飼っている?
シノープは、
我々の一部だよ。」
「シノープ?」
その梟の
名前なのだろう。
無名はこめかみに
シノープをぴったりと
くっつけた。
そして
聞こえない声を聴くように、
見えないものを見るように
顔を上げた。
無名のわずかに
覗く虹のような瞳の色が
一瞬輝いて見えた。
不思議な光景だった。
梟が、この盲人に、
何かを伝えているかの
ようだった。
しばらくの間
そうしていたあと、
無名はシノープを
自分の肩に乗せた。