修道院のふもとにへばりついている
小さな家々のいくつかには明かりがともっていた。

ここは、ミカエル山の巡礼者のための宿場町になっていた。
宿屋、食堂、土産物屋、飲み屋などの店が、
ぎゅっと凝縮されて小さな小さな町になっていた。

その中の、立体的な迷路のような路地裏にある酒場に案内された。
ここはルイーダの店。

女店主のルイーダと剛力は懇ろのようだった。

「この女はな、ミカエル山で一番強い男としか寝ないんだ。」

「ほー。じゃあ、剛力より強い奴が現れたらどうするつもり?」

「さあ、どうしようかな?」

ルイーダはカウンターから出てきて、剛力の背中をなでまわした。
剛力がでれでれした顔をした。
こいつにも、こんな一面あるんだな。

「昼間、ニコルと手合わせしてた時、けっこういい勝負だったじゃないか。」

「あれは訓練じゃないか。ニコルもまあ、わりとやるほうだが、
実戦経験はほとんどないんじゃないか?」

たしかに、この剛力が、あの子供の背丈ほどの剣でぶった切れば、
たいてい即死だろう。

剛力に最初に会ったとき、なんて礼儀正しくて、雄雄しく、立派な騎士だと思った。
こういう男が、ミカエル山の象徴なんだと勝手に思った。

でも実際来て見ると、信心深い者もあまりいないし、変な奴ばかりだった。



ルイーダが剛力の上着をめくってみせた。

「おい、よせよ。」

剛力の毛深く岩のような背中が現れる。
肩甲骨から腰の辺りまで、大きな傷があった。

「この人、すごいでしょう。この傷。」

ルイーダが俺に向かって言った。

「うわあ。よく助かったな、剛力。」

「俺はバイキング出身でよ。」

ルイーダは剛力の傷を指でなぞっていった。
この女は剛力そのものでなく、この傷を愛しているように見えた。

「それなら、数々の武勇伝をもってるんだろうな。
だけどなんでここへ?」

「俺は、実はミカエル山を落とそうとしたんだ。」

「へえ?」

「ミカエル山にはお宝がたくさんだろ?
しかも坊さんの城だから落とすのは簡単と思った。
だけどほんとにこの山は大天使に護られているんだな。
それまで晴天の凪だったのに、急に荒れだしてな。
立っていられないくらいの大波になってな。
ついには船が転覆しちまった。
俺は重い鎧をつけていたから沈んだよ。
それから記憶がない。気づいたら修道院にいた。
あとから聴いた話だと、ミカエル山のふもとの海岸に打ち上げられていたってよ。
俺はミカエル山を略奪しようとしてたのに、助けられちまったんだ。」

「オーベール師が?」

「そうだよ。俺がバイキングで、
当然ミカエル山を襲おうとしてたこともわかっていただろうに、
それでも助けてくれたんだよ。」

「そうか。」

道化師だった俺が掬い上げられたように、
この男もまた、掬い上げられていたのか。