「貴様の郷は?」

俺は立ち上がった。

「日ノ本だ。俺はミゲーレ。よろしくな。」

握手をした。

「見ていたよ。命名式。
まさか大天使ミカエルが守護聖人だとは。
道化師あがりがな。」

「名前をきかせてくれないか?」

「ニコル。」

そのまま去っていった。
なんだかいけ好かない野郎だ。




午後まで労働をすると、次は剣術の鍛錬。
俺は剣術はやったことがない。
高野山は平和だったから僧兵もいなかった。

剣術を教えてくれるのは、
俺をミカエル山に迎えに来てくれた剛力だ。

剛力はニコルと手合わせをしていた。
剛力は初めてであったときの印象そのままの、
鉄腕の剣闘士だ。

糞餓鬼博士の身長とそう変わらないほどの一振りの剣。
それを意のままに操る。

対するニコルは身軽に、
時には剛力をもてあそぶかのようにひらりひらりとかわしていた。

二人の実力は拮抗しているように見えた。
手合わせが終わると、いきなり鞘に入った剣を渡された。

「まずはお手並み拝見といこうか。」

剛力が言った。

俺は剣の扱いが全くわからず、
ほとんどこわごわと両手に握っていた。

「だめだ、剛力、こいつ、ずぶの素人だ。」

ニコルがにやにやしながら言う。

「まあいいから、とにかく抜刀だけでもやってみろ。」

剣は本物だった。
僧侶や魔法使いが扱う軽量のものであったが、
それでも持ってみると重いものだ。

俺はみようみまねで、侍のイメージで鞘を脇に持ち、
剣を抜いてみた。

剣は鞘の途中で引っかかった。

ニコルが手をたたいて笑う。

「くそう。」

剛力は俺から剣を取り上げ鞘をはずした。

「構えてみろ。」

剛力が手を沿え柄の握り方を教える。

「グッと。こう。ぐっと。」

「もう少し腰を落として」

剣の先端の重さに、体がなんともおぼつかない。

「こりゃあ、だめだな。」

剛力ははやくもさじを投げた。

「ミゲーレはまず、剣術をやる前に体づくりをやらなきゃだめだ。」

剛力は俺から剣を取り鞘に収めた。

「まずは腹筋、千回!!」

「ええ。」

「とりあえず、そこで腹筋やってろ。
あとはもう少しいろいろ考えてやる。」

言われたとおり腹筋をはじめた。
ニコルは俺を見下ろす格好で、にっと笑って去っていった。
感じの悪い奴だ。

腹筋を続ける。
肉体の鍛錬はきらいではなかった。
高野山ではお勤めのひとつだったが、
ロマリアでの自堕落な生活で筋力も体力もすっかり落ちた。

どうせならヘブライ語も同時にやってやろう。
ヘブライ語で腹筋の回数を数えた。
するとますます筋肉に効いてきた。

そのあとは剛力が、
剣士たちの指導にあったっている老剣士と一緒に、
俺のために作ってくれた筋力鍛錬の項目を黙々とこなしていった。

しばらくは単調な鍛錬を続けることになった。