俺は食器を下げる時、
厨房の又三郎に声をかけた。
「ニカイアって、来た?」
「来たんじゃない?」
又三郎は大量の食器を
片付けながら言った。
「ニカイアはいつも
パンだけもらってどっかへ
行って食べてるみたいだね。」
「パンだけ?
それだけじゃ足りないだろう。」
「そうだよね。
僕も言ったんだよ。
ちゃんと主菜も
スープも食べろって。
でもあいつは
人の言うことなんか
きかないから。」
又三郎は厨房の奥に
食器を運んでいった。
12歳で修道士になり、
それからろくに
食事も摂ってないから
あんなに体も小さく、
発育が不十分なのだろうか。
昼休みが終わったが
ニカイアが戻ってこない。
俺は仕方なく捜しに行った。
少年宿舎に入り、
部屋を一つ一つ見て回った。
その中に、
二段ベッドの上に、
寝床を囲うように
布を吊っているところがあった。
どうも中に人の気配がある。
俺ははしごを昇って
布をめくってみた。
警戒して身構える
ニカイアがいた。
侵入者が俺とわかると
くつろいだ様子になった。
「おまえ、飯食ったの?」
俺は言った。
「うん。」
ニカイアの視線が
シーツの上に転がっている
半分かじったパンに注がれた。
「これだけ?」
「そうだよ。」
「腹空かないのか?」
「もう食いたくない。」
どこか体の具合が
悪いのだろうか?
「こんな、
パンのひとかじりで
足りるわけがないよ。
今日の昼飯はうまかったよ。
羊の骨付き肉に
りんごのソースがついて。
肉にすり込んである塩っけと、
りんごの甘酸っぱさの
組み合わせが
すごくうまかった。」
「ふうん。」
「食いたいと思わないのか?」
「思わないよ。」
相変わらず、
ニカイアは俺の話に
何の興味も示さない。
「おまえはいつも
ここで食べているのか?」
「そうだよ。」
「ここは寝床だろう。
なんでこんなところで
食うんだよ。」
ニカイアはだるそうに
ごろんと体を横たえた。
「ものを食べているところを
人に見られるの、
いやなんだ。」
「なんで?」
「わかんないけど、
修道士になってから
ずっとそうさ。」
「変わった奴だなあ。
それより、
もう昼休み終わったぞ。
早く現場に出て来い。」
ニカイアは寝返りを打って
俺に背を向けた。
「もう、腕が痛くて、
これ以上無理だ。」
あきれたもんだ。
俺はため息をついた。
「そりゃあ、
たったのそれしか
食わないんじゃ
力も出ねえよ。」
俺は半ば面倒くさくなった。
「もう、今日はいいや。
明日はちゃんとやれよ。」
ニカイアは背を向けたまま
黙って少し手を
あげてみせるだけだった。
俺もとんだ奴を
押し付けられたものだ。
厨房の又三郎に声をかけた。
「ニカイアって、来た?」
「来たんじゃない?」
又三郎は大量の食器を
片付けながら言った。
「ニカイアはいつも
パンだけもらってどっかへ
行って食べてるみたいだね。」
「パンだけ?
それだけじゃ足りないだろう。」
「そうだよね。
僕も言ったんだよ。
ちゃんと主菜も
スープも食べろって。
でもあいつは
人の言うことなんか
きかないから。」
又三郎は厨房の奥に
食器を運んでいった。
12歳で修道士になり、
それからろくに
食事も摂ってないから
あんなに体も小さく、
発育が不十分なのだろうか。
昼休みが終わったが
ニカイアが戻ってこない。
俺は仕方なく捜しに行った。
少年宿舎に入り、
部屋を一つ一つ見て回った。
その中に、
二段ベッドの上に、
寝床を囲うように
布を吊っているところがあった。
どうも中に人の気配がある。
俺ははしごを昇って
布をめくってみた。
警戒して身構える
ニカイアがいた。
侵入者が俺とわかると
くつろいだ様子になった。
「おまえ、飯食ったの?」
俺は言った。
「うん。」
ニカイアの視線が
シーツの上に転がっている
半分かじったパンに注がれた。
「これだけ?」
「そうだよ。」
「腹空かないのか?」
「もう食いたくない。」
どこか体の具合が
悪いのだろうか?
「こんな、
パンのひとかじりで
足りるわけがないよ。
今日の昼飯はうまかったよ。
羊の骨付き肉に
りんごのソースがついて。
肉にすり込んである塩っけと、
りんごの甘酸っぱさの
組み合わせが
すごくうまかった。」
「ふうん。」
「食いたいと思わないのか?」
「思わないよ。」
相変わらず、
ニカイアは俺の話に
何の興味も示さない。
「おまえはいつも
ここで食べているのか?」
「そうだよ。」
「ここは寝床だろう。
なんでこんなところで
食うんだよ。」
ニカイアはだるそうに
ごろんと体を横たえた。
「ものを食べているところを
人に見られるの、
いやなんだ。」
「なんで?」
「わかんないけど、
修道士になってから
ずっとそうさ。」
「変わった奴だなあ。
それより、
もう昼休み終わったぞ。
早く現場に出て来い。」
ニカイアは寝返りを打って
俺に背を向けた。
「もう、腕が痛くて、
これ以上無理だ。」
あきれたもんだ。
俺はため息をついた。
「そりゃあ、
たったのそれしか
食わないんじゃ
力も出ねえよ。」
俺は半ば面倒くさくなった。
「もう、今日はいいや。
明日はちゃんとやれよ。」
ニカイアは背を向けたまま
黙って少し手を
あげてみせるだけだった。
俺もとんだ奴を
押し付けられたものだ。