ある時、
もうすぐ16歳になる少年が
現場に研修に来るというので
面倒見てくれと頼まれた。

大聖堂の工事は
取り壊し部の撤去が
やっと終わり、
正面の壁面を作っていた。


そいつはやたらと
長い髪をしていた。

色素が薄いらしく、
その色は銀色で
腰の辺りまであった。

それを束ねもせずに
まっすぐに
伸びた髪の隙間から
目が覗いている。

眉毛もまつげも真っ白で、
瞳の色素もほとんどなく、
真ん中の虹彩の部分だけが
わずかに金色に見える。

それにしても、
こいつは本当にもうすぐ
16歳になろうという年齢
なのだろうか。

体が小さい。細い。
12、3歳くらいにしか見えない。

建設現場の仕事に
耐えられるのだろうか。

「俺はミゲーレ。
名前は?」

「ニカイア。」

まだ声変わりもしていない。

「ニカイア、髪を結べ。」

ニコルが言った。
ニカイアは何も言わない。
まるで
自分に言われているとも
思っていない様子だ。

「髪が長いと、
引っかかったり
はさまれたりして危険だ。」

そういって革の紐を
ニカイアに渡した。

ニカイアはそれでも革の紐を
手にぶら下げたまま
ぼうっとしている。

基本的にニカイアはいつも
ぼうっとしているようだ。

俺はニカイアの手から
紐を取り、
後ろからニカイアの髪を束ねた。

その髪は適度な水分量を
含み重みがあった。
そして表面がなめらかで、
大量の髪の毛を束ねるのは
なかなか骨が折れた。

縛っても革の紐は
つるつる滑ってしまうのだ。

「この髪、切れって
言われなかったか?寮父に。」

「俺の髪は10歳の頃から
一度も切ってない。」

「そうか、きれいな髪だな。」

それから工法の説明などしたが、
全く手応えがない。

「なあ、俺の話、聴いてる?」

ニカイアの束ねた髪は
もうほとんどほどけてきて、
顔にかかった髪から
わずかに覗く目を見た。

なんだか不思議な奴だ。

「俺のこと、見えてる?」

その金色の瞳はどこを
見ているのかわからない。

ニカイアの瞳を追った。
金色の虹彩の中心に
ある黒い点、
それは単なる点だ。

それが俺をとらえた。

「見えているよ。
あんたの声も、聴こえてるよ。」

「だったら、もうちょっと
なんか反応しろよ。
相づちをうつとか、返事するとか。」

そう言っても、ニカイアは
ぼんやりとしているだけだ。