朝食が済むと労働の時間。
ミカエル山の聖堂はとても不思議な構造をしていた。

はるか昔から建て増しにつぐ建て増しが繰り返されていた。
岩山と人工の石かべが同化している部分もあった。

なので常に修復を続けていなければならない。
目下、問題があった。

聖堂の西側前部を下から支えている土台の強度に不安が出てきたという。
土台は無数の太いロマネスクの柱で成っていた。
だがそこから不気味なきしみ音がきこえてきて、
あちこちに亀裂も入ってきた。

もともと山肌に人工的に作った建物なので構造に無理があるのだ。
俺は高野山で土木技術も学んだことがあった。

現場監督はヨセフ。
この人は霊名そのままで呼ばれていた。
ナザレのイエスの父聖ヨセフは大工だったので、
うってつけの霊名だ。

ヨセフは土台部分の亀裂の入った箇所を俺に説明した。
そして上の聖堂に上がってみた。

どう見ても、この聖堂の重さにあの柱では耐えられないのだ。

とりあえず今、対処療法的に土台の柱の補強工事が行われていた。

「聖堂の、前身部を取り壊して、軽くするしかないんじゃないですか?」

俺は新参者だったが思い切って率直に言った。

「そんなことが、できるわけないだろう。」

ヨセフよりも先に言った者があった。

黒い髪に、黒い目をした男だった。
そして肌の白さ、俺と同郷の人間だろうか?
西の諸国に来てから、自分と同じ民族にはほとんどであったことがない。

このミカエル山にいるのも、ほとんどノルマンディ、ケルト、ガリア人だ。

「あ、あんた、国は?」

思わずたずねる。

「シンラだよ。」

「そうかあ。」

俺の故郷の日ノ本とシンラは海を隔てているが争いが絶えない。
だが、この西の果てに来てこうして出会ってみると、
その黒い髪と黒い目に、懐かしさをおぼえた。

ところが奴のほうはそうでもないらしい。

「今はそんな話をしているときじゃないだろう。
聖堂を壊すなんて、本気で言ってるのか?」

「ああ、そうだったな。
あの、ロマネスク造りの重い建物は、下の柱では支えきれない。
もう限界にきてる。」

ヨセフが割って入る。

「もう少し、土台を調査してみよう。補強で、なんとかいけるのかどうか。」

そういうわけでしばらく土台部の柱の亀裂を埋める作業などすることになった。


昼食の後、短い昼休みがあった。
俺はヘブライ語の本を覚えこもうとしていた。
あの生意気な博士に文句を言われたくない。

すると芝に座っている俺の前に立つ者があった。
シンラから来たあの男だ。