そのとき
仕事を片付けた
又三郎が来た。

「何してるの?」

俺とトラビスの
神妙な雰囲気を
不思議に思ったようだった。

すると突然に、
トラビスは立ち上がり、
いきなり又三郎の
あごをつかんで
くちづけをした。

長いくちづけだった。
又三郎は
なされるがままになっていた。

くちびるを引きはがすと
トラビスは俺に言った。

「ミゲーレ、
どんな気持ちがする?」

俺はわけがわからず
呆然とするだけだった。

背後から、
何か圧力のようなものが
せまってくるのを感じた。

見ると、ニコルだった。

ニコルは怒っていた。

「トラビス、
いくらあんたでも、
ここでそんなことしては。

わかっているだろう。」

「申し訳ない。」

トラビスはすぐに謝り、
軽く十字を切って
天に向かって
手を合わせた。

そしてそのまま去った。

ニコルもどこかへ
行ってしまった。

又三郎は手の甲を
口に当てていた。

「ミゲーレ以外の人と
キスしたの初めてだ。」

立ち上がった俺に
又三郎が言った。

「どきどきした。」

俺は又三郎を
殴りそうになった。

「あ、ミゲーレ、
怒ってるの?」

ミゲーレ、
どんな気持ちがする?

さっきトラビスが
俺に言った。

俺はひとつの呼吸をした。

俺は又三郎を
独占している。
他者の侵略は許さない。

それが俺の気持ちだ。

「トラビスは普段
穏やかなんだが、
たまに暴走するんだよな。」

俺は自分の暴力を
あきれることでごまかした。

「一体なんなの?」

「あいつは
悩める修道士なのさ。」

「ふうん。」

独占欲。

俺もトラビスも、
独占欲に囚われている。