朝の全体礼拝に
トラビスは
何食わぬ顔で
参列していた。

俺が眠っている間に
ちゃんと戻って
きていたらしい。


祈りの時間、
トラビスは空中回廊で
一人座っていた。

本来、ここは
黙想しながら
歩くところであり、
座ることはない。

トラビスはひざを立てて
その上で手を組んでいた。

「昨夜はマリアに会ったのか?」

俺は声をかけた。
そしてトラビスの隣に座った。

「本当はお別れするつもりだった。
でもやっぱり、僕は負けたよ。」

「欲望に?」

トラビスは自嘲的に笑って
うなづいた。

「昨夜はおまえの
ベッドが空だったから、
ちゃんと礼拝に出てくるか
どうだろうと思った。
でもちゃんと出てきたな。」

「ああ。」

「前はミサはすっぽかすし、
朝の礼拝には遅刻するし、
今度はどうなるかと。」

「もういいじゃないか。
そんなこと。」

トラビスの自嘲は消えない。

「ああ。ごめん。」

「初めて彼女を抱いた時、
肌に触れた彼女の腰が
動いていた。
それを見たとき、
僕の体は欲情していたが、
気持ちのどこかで、
何か冷めた。

だが昨夜は、
腰が動いてしまう彼女を
いとおしく感じた。」

俺はトラビスと同じく、
ひざを立てて座り、
手を組んだ。
その上にあごを乗せ
トラビスの話を聴いた。

「マリアはトラビスを
求めていたんだ。」

トラビスはずっと
真っ暗な海を見ている。

「娼婦は
交接を技術だと思ってる。
客がよろこびそうな
反応をしてみせるが、
ただの穴だ。

だけどマリアは
純粋におまえを
求めたんだ。

俺は、一番最初から
マリアの想いが
純粋なものだと
思っていたよ。」

トラビスは自らの腕に
顔をうずめた。
うめくように言った。

「他の男に、
触れさせたくないよ。」

ほとんど独り言のようだった。

「おまえは、
堂々巡りだな。」

俺はむき出しになっている
トラビスの首根っこを
つかんでもみほぐした。