「おまえの実家
こんな感じ?」

「まあ、だいたいね。」

「パン屋さんなんだ。」

マリアが言った。

「これもらっていい?」

「ええ。」

「ありがとう!マリア」

そう言って又三郎は、
マリアの頬にキスした。


三人で納屋を出て、
マリアと別れたあと、
又三郎が
俺の手を握った。

俺はマリアの涙を見て
なんとなくせつない
気分になっていた。

又三郎の腰を
抱いて歩いた。

「この山に
あんな子がいたなんて
知らなかった。」

「そうだよな。
ちょうどおまえが
ここへ来た頃に
あの子が生まれた
くらいかもな。」

「こんなに近くにいたのに
ずっと今まで出会うことも
なかったなんて、
なんか不思議だな。」

「近いけれど、
別の世界なんだよ。」

「大人の世界だ。」

俺は
悲しい気持ちのまま
笑った。

「トラビスのことが
好きなんだね。」

「そのようだな。」

そんなことを
話していると
すぐに修道院に着いた。