しばらく俺は仕事もせずにアパートメントで寝転がったり、
下のトラットリアでおかみさんと無駄話をしたりしてすごしていた。

ある日、以前、見世物小屋で一緒に興行をやっていたクラウンの一人が
突然たずねてきた。

そいつは独立して、新たにサーカスを作りたいといった。

「あのチビオヤジはあくどいぜ。あの小屋はなんだか後ろ暗い雰囲気だろう。
そういうんじゃなくて、もっと明るくて、いろんな人が楽しめるショーをやりたいんだ」

もともとこいつは隣国のサーカス団で人気を博していたクラウンだった。
綱渡りもできたし、ジャグリングもやったし、火も噴いた。

「サダクローが暇こいてるって聞いたから、こうしてやってきたんだ。
一緒にやろうぜ」

「そうだなあ」

俺はぼんやりと返事をしたら、
やつは勝手に俺がもうやるものと決め付けてしまった。

そうして新しいサーカスでの生活がはじまった。




なんとなく、以前やっていた幻術にいやけがさしていた。
他人の欲望に巣食うような見世物はやりたくないと思った。

それ以外で、自分になにができるだろう?

(qどうしような、何か俺できることあるかな?)

qに聞かせてやっていた寝物語はどうだろう。
観客に幻灯で物語を描いて見せて楽しませる。


これはなかなか当たった。

俺を誘ったクラウンは敏腕で、サーカス団は大人気になった。

各国の王室や貴族からお呼びがかかった。

ある時、西の国の聖ミカエル山に構える修道院から慰問の依頼が来た。