そうだ
恐れないで
みーんなのために
愛と勇気だけが
友達さー♪
……なぜにアンパンマン。なぜに熱唱。
しかし、ユイは歌うのをやめなかった。
「ユイちゃん……ずれてる」
「え?」
「友達さー、のとこ。音程ずれてるよ」
「そ、そうかな」
バカなやりとりをしている間にも、車はどんどんバックで坂を下っていく。いつ道路からはみ出して段々畑を転がり落ちても不思議じゃない。
もうダメだ……!
絶望的な状況の中、俺は死を覚悟して目をつむった。そのとき。
バタンッ――! と大きな音がしたかと思うと、親父が運転席に上半身を突っこんで、サイドブレーキを思いっきり引き上げた。