最初、俺たちはそれぞれ平和に遊んでいた。俺は買ってもらったチョロQを取り出し、ユイは「ぐりとぐら」の絵本を声に出して読んでいた。
ところが、1分ほど経った頃だろうか。ユイが言った。
「ねえコーちゃん。この車、動いてない?」
アホな俺はチョロQのパトカーを振り回しながら
「そうだよ、この車は本当に動くんだ」
と言った。
「その車じゃなくて、この車よ」
「この車?」
「うん。あたし達が乗ってる、この車」
俺は窓の外に目をやった。
さっきまでフロントガラスのすぐむこうに見えていたはずの、親父の知人宅の門が、明らかに2メートルほど遠ざかっていた。
「ほんとだ」
「そうでしょ? バックしてるよね?」