「……ん?」
心の奥に、またしても正体不明のモヤモヤが生まれた。
なんだろう。この感じ。ユイの涙を思うとき、なぜか胸の中に苦くてザラザラしたものが広がる。
俺は自転車を再び走らせながら、そのモヤモヤの正体について考えた。
記憶の糸を、切れないようにそっと手繰り寄せていくと、次第にモヤモヤの輪郭が浮かび上がってきた。
あれは――俺たちが幼稚園に入ったばかりの頃だ。
うちの親父に連れられて、俺とユイは隣り町のショッピングセンターに遊びに行った。その帰り道だったと思う。
親父が知人宅に届け物をするために、その家の前で車を止めた。山の上に建つ、木造のでかい家だった。
「すぐに戻ってくるから車の中で待ってろよ」
親父は俺たちを車中に残し、出て行った。
はーい、と無邪気に返事する、俺とユイ。
事件は、その後に起こったのだ。