◇ side.Kota ◇
俺の自転車、通称コータ・スペシャルは猛スピードで坂を下る。
冷たすぎる空気を割ってギュンギュン疾走すると、無防備にさらけ出した顔の皮膚が痛くなってくるけれど、それでも俺は自転車を止めない。
ぐるりと旋回するようにゆるやかなカーブを曲がるとき、町は俺の視界にすっぽりとおさまる。
山と田んぼが面積の大半を占める、田舎町。この町のどこかでユイが俺を呼んでんなら、駆けつけてやるぜ!
俺は今、正義のヒーローにでもなった気分を味わっている。
そうだ、俺はヒーロー。
スーパーマンとかアンパンマンにも負けはしない。
アンパンマンはパンのくせに村の平和を守っているのだ。人間であるこの俺が、ユイ一人くらい守れないわけがないじゃないか。
待ってろよ、ユイ!
……とカッコよく叫んでみたとこで、俺は重大なミスを犯していたことに気付き、慌ててブレーキをかけた。
いやいや、ここはまず、ユイの家に電話だろ普通。